もし仮にこのドラマが想像の上のつくり話だったら、こんな友情の押し売りはあり得ないしちょっと出来過ぎじゃん、と見向きもしないだろう。だが実話なのである。それもあの一流誌『Esquire』の誌面を飾った原作(エッセー)が元になっているというではないか。2015年、全米雑誌賞を受賞したというから、作りモノのお涙頂戴話ではないのだ。
余命宣告を受けた舞台女優の妻=ニコル、海外取材などで留守にしがちなジャーナリストの夫=マット、その夫婦二人と幼い姉妹のファミリーを献身的に助ける友=デイン(というより初めは彼女に夫があることを知らずにいた舞台のスタッフ)の出会いから13年間を描いたヒューマン・ストーリーだ。『Our Friend』(友よ)とは、そう、デインのことである。告知を受けた日から一家の生活は一変し、妻の介護と子育ての負担にマットが押しつぶされそうになった時、デインがやって来る。デインは細々とした家事をやり子どもたちとの遊び相手になり、疲れたマットを励まし寄り添う。その存在は静かで押し付けがましい風でもなく、自然に家族を包んで支えている。ともすれば生と死の間にある夫婦の闘いに埋もれてしまうほどだが、しかし確かにデインは、常にそばにいる。なぜ、そこまでやるのか、と見ている側も呆れてしまいそうになるほどだ。惜しみない友情の答は、ガンの告知から2年前、彼もまた人生の方途に悩み、生きてゆく目標を失いかけたとき、ニコルとマットに救われたという思いがあるからだった……。
末期がん、闘病生活、終末医療、在宅介護……死を見つめるドラマは数多あるが、生きる日々を数えるばかりとなった家族を支える友(デイン)がいたことを主軸に描かれたことで悲惨さの影を抑え、むしろ美しく、切なく心温まる物語となっている。また妻を失った原作者が、ジャーナリストであったことはこの物語を生んだ大きな要素だろう。妻の闘病記や直接的な死について書くことを避け、友の存在をエッセーとしたことに拍手を送りたい。そして方々から映画化のオファーが舞い込んだ、とはムベなるかな、である。
Our Friend /アワー・フレンド
10月15日(金)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座
ほか全国ロードショー
■監督:ガブリエラ・カウパースウェイト
■ 脚本:ブラッド・イングルスビー(『ファーナス/訣別の朝』『シングルマザー ブリジットを探して』)
■原作:マシュー・ティーグ (「The Friend: Love Is Not a Big Enough Word」)
■キャスト:ケイシー・アフレック、ダコタ・ジョンソン、ジェイソン・シーゲル、チェリー・ジョーンズ、グウェンドリン・クリスティー
■2019年/米/英語/126分/カラー/ビスタ/5.1ch/原題:Our Friend/字幕翻訳:神田直美/G
■配給:STAR CHANNEL MOVIES
■ 公式サイト:https://our-friend-movie.com/