人生に「たら、れば」はつきものだが、もしロボットと分かっていながら同棲生活をする羽目になり、この男(高性能AIアンドロイド)に愛の詩を囁かれたら……。
ベルリンのペルガモン博物館で、楔形文字の研究に没頭する学者〈アルマ〉。研究資金を稼ぐため、とある企業が極秘で行う特別な実験に参加することに。そこに現れたのは紺碧の瞳でアルマを熱く見つめるハンサムな〈トム〉。初対面にもかかわらず、積極的に口説いてくる彼は、全ドイツ人女性の恋愛データを学習し、アルマの性格とニーズに完璧に応えられるようプログラムされた高性能Alアンドロイド! トムに課されたミッションは、〝アルマを幸せにすること〟ただひとつ。実験期間は3週間。献身的でロマンチックなトムのアルゴリズムは、過去の傷から恋愛を遠ざけてきたアルマの心を変えることができるのか?
本作はコメディーなのか、ラブロマンスなのか、いずれも「ちょっと待って!」と言いたいところだ。ミドルエイジ・クライシスに直面する女性をアンドロイドが救うラブロマンスに見せながら、アルゴリズムがはじき出した居心地の良さに人間が溺れる危険性も匂わせる、哲学的な問いを投げかけてくるのだ。しかしアルマはトムと恋に落ちてしまい、彼女は解決し難い問題に直面する。彼女は自分の信念に反し、欲望を追いはじめ理性と感情が矛盾して絡み合う。しかし少なくともしばらくの間、彼女は幸せであるかのように見えてくる。
「愛」と「非常に複雑なアルゴリズム」の違いは何なのか。人間の伝統的な恋愛関係においても、我々はパートナーのニーズに合わせて自分を調整しようとする。人間関係において、何が「本当」なのか、そしてどこまでが学習され、調整され、そしてプログラムされたものなのか。AIと人間の将棋ゲームに一喜一憂するようなことではなく、もっと心の襞の深いところで人間の感情とアルゴリズムの交錯の危ない関係を問うているのだ。いつの世か、人工知能を持つトムのようなロボットが人間より発達した存在になり、優れた存在になって、人類を時代後れの存在にしかねない、と警鐘を鳴らしているようだ。
監督: マリア・シュラーダー
脚本: リーザ・ブルーメンベルグ & マリア・シュラーダー
原作: エマ・ブラスラフスキー
出演:ダン・スティーヴンス、マレン・エッガルト、ザンドラ・ヒュラー、ハンス・レーヴ
配給:アルバトロス・フィルム
2021年|ドイツ映画|ドイツ語|107分|英題:I’m your man|
公式サイト:imyourman-movie.com