『初恋のきた道』『活きる』『サンザシの樹の下で』など、チャン・イーモウ監督の描く人間ドラマは、困難な時代や状況にあっても、懸命に生きる名もなき人々の姿がある。本作品『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』も文化大革命の時代が背景にある。たった1秒、フィルムに映った娘の姿をみるため、強制労働所から脱走し映画が上映される予定の小さな村の映画館を目指し、広大な砂漠を突き進む父親が主人公だ。
男は村に向かう途中、運搬されるフィルムからひと缶を盗み出す小汚い少女を目撃する。幼い弟と二人暮らしの孤児で、勉強好きな弟のために、電気スタンド用にフィルムで新しい笠を作ってあげるためだったのだ。
村にフィルムが届いたかと思ったら、運搬係の不手際で膨大なフィルムがむき出しでばらまかれ、ドロドロに汚れたことで、上映不可能な状態になってしまう。なんとか上映するために、映写技師はフィルムをひと缶ずつ丁寧に手洗いで洗浄することを決め、村を挙げての洗浄作業が始まる。
映画を見ることが唯一の楽しみだった時代、夢中で映画を見る人々の熱気が伝わってくる。また数千人の観衆が古い映画『英雄子女(1964)』の挿入歌を一緒に歌うシーンも忘れ難い。さらに、小汚い少年のようだった少女が、チャン・ツィイーを彷彿させる少女に成長した姿で現れたときは、一瞬にして画面が明るくなった。時代が変わったのだ。
現在の中国映画は完全にデジタル化され、フィルム映画は消滅してしまった。本作で流れるニュース映像は、本作のために撮影し、海外で現像を行った。監督の映画フィルムに対する愛が込められている。
5月20日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ 他全国公開
■監督・脚本:チャン・イーモウ
■出演:チャン・イー、リウ・ハオツン、ファン・ウェイ
■配給:ツイン
■公式サイト:https://onesecond-movie.com/