主人公は、南仏の海沿いの町の古ぼけた公営住宅で、兄3人と暮らす14歳の少年・ヌール。昏睡状態の母を兄弟4人は、自宅で介護をしている。生活は苦しく、ヌールはまだ中学生ながら夏休みは、兄たちの手足となって働き、命ぜられるままにバイト三昧の生活を送る。そんなヌールに欠かせない日課は、母の部屋までスピーカーを引っ張っていき、母の大好きなオペラを聴かせてあげることだった。そんなある日、 教育奉仕作業の一環で校内清掃中だったヌールは、そこで歌の夏期レッスンをしていた講師に呼び止められ、歌うことに魅せられていく――。また兄たちも、そんなヌールを温かく見守るのだった。
ヌールが母親に聴かせるオペラの曲は「人知れぬ涙」にはじまり、パヴァロッティの「誰も寝てはならぬ」やマリア・カラスの「カルメン」など、劇中に登場する数々の名曲がドラマを各所で彩るのも、本作の大きな魅力の一つ。
芸術とは縁遠い環境の中で暮らす少年がオペラ歌手を夢見るきっかけとなるひと夏の出来事を、ヨアン・マンカ監督が、自伝的な要素を交え、映像で描いた長編デビュー作である。
本作は、2021年カンヌ映画祭<ある視点部門>に正式出品された。ヨアン・マンカ監督は、フランス映画界を担う新進気鋭の監督として注目されている。厳しい現実の中でもまっすぐに目を向けながら、4兄弟の絆、母への愛を貫き自らの夢を信じて一歩を踏み出そうとする少年の勇気を描いた感動作である。
『母へ捧げる僕たちのアリア』
6月24日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開
監督・脚本:ヨアン・マンカ
出演:マエル・ルーアン=ブランドゥ、ジュディット・シュムラ、ダリ・ベンサーラ、ソフィアン・カーメ、モンセフ・ファルファー
配給:ハーク 配給協力:FLIKK