昭和を代表する作家・有吉佐和子の作品は、演劇界でも数多く上演されている。『香華』『華岡青洲の妻』『不信のとき』『乱舞』『芝櫻』『木瓜の花』『真砂屋お峰』『和宮様御留』『紀ノ川』『恍惚の人』『悪女について』と、思い浮かべるだけでも斯くのごとし。演劇に造詣が深く『ふるあめりかに袖はぬらさじ』という戯曲も執筆している。本作『三婆』もまた、1973年に今回と同じく、小幡欣治の名脚本により舞台化されて以来、上演を重ねてきた作品である。
戦後の高度成長期を時代背景に、なおも女たちが直面していた社会的制約や不平等の中で、本妻・愛人・義妹という各々異なる立場や環境に置かれているにもかかわらず、自分自身を見つめ、自分の人生を生きることを選択する女たちの老後問題をユーモアたっぷりに描き出し、三人の主人公たちの葛藤や成長が観客たちに深い共感を呼び起こしてきた。この芝居の要はそれぞれの役を演じる三人の女優たちの顔合わせであろう。
73年の初演では市川翆扇・一の宮あつ子・北林谷栄という、新派、商業演劇、新劇のベテラン女優が顔をそろえたツウ好みの顔合わせだった。その後も、池内淳子・渡辺美佐子・加藤治子、水谷八重子・浅丘ルリ子・山本陽子など、その都度魅力的な競演が話題になった。
今回の公演は、〝新派百三十五年記念〟と謳い、不安定な立場の愛人の駒代に水谷八重子、プライドにしがみつく本妻松子に波乃久里子という新派の二大女優、そして血縁にしか頼るものがない義妹タキに、新派公演初登場となる渡辺えりという、一筋縄ではいかない波乱の物語を予感させる女優たちの顔合わせが実現した。演出は、新派をはじめ、歌舞伎、ミュージカルと幅広いジャンルの作・演出を手がけている齋藤雅文が務める。
新派としてはおよそ3、4年ぶりとなる製作発表では、三女優がそろって会見に臨み、「やはり、お客様にしょっちゅう役者としての姿を見せていなければいけないと思っている」と八重子が言えば、久里子は「60年以上役者をやっていても、気持はいつも新人」と応え、渡辺えりは「20歳のころ、美輪明宏さんに花柳章太郎さんの『日本橋』の映像を見せていただいたことがありますが、そんな歴史ある新派の公演に参加できるなんて考えられない」と新派初参加の感想を述べると共に、「小劇団ではありえませんが、今回一番の新人として、みなさんの芸を盗むつもりです」と意欲をみせた。そして「女性の場合はどう表現すればいいのかわかりませんが、褌を締め直して今回の公演に臨む」と、場内を笑わせたが、渡辺の新派公演にかける意気込みが伝わってきた。
実は3、40年くらい前に久里子から新派の舞台に出ないかと誘われた渡辺。八重子は渡辺を「新派の舞台に出なきゃいけないと運命づけられている役者で、やっと実現したという思いです」と渡辺の参加を喜んでいる。