23.05.29 update

渡辺えりが新派公演初登場で、水谷八重子、波乃久里子と共演 『三婆(さんばば)』

 八重子、久里子共に、『三婆』では、松子、駒代の役をそれぞれが演じており、渡辺も大竹しのぶ、キムラ緑子との共演で2度タキの役を経験済みという、三人にとってはなじみの芝居であるが、今回の公演に際して、渡辺は「4年前に初めてタキを演じたときは、若いつもりでお婆さんを演じていました。今回、実年齢の68歳のまま、今の苦しみ、孤独感、痛みを演じようと思います。この年代の女性たちが元気になるように、女性たちの励みになるように演じてみたいと思います。八重子さん、久里子さんは私の演技を何でも受け入れて返してくださると思っているので安心です」と新派の看板女優二人に絶大な信頼を寄せる。

 久里子は、「初めて『三婆』に出演したときは、59歳か60歳でしたので、お婆さん役にテレがありましたが、今回は若返ってやろうと思っています」と、八重子は、「ハツラツとした姿を見せ、元気をいっぱいお客様にお返しいたい」と役者としての貫禄十分。さらに渡辺は「目に見えない人間が支え合うというものを、この芝居では感じます。男社会で、男に頼って生活せざるを得ない、それが三人で暮して初めてわかるという、その演劇構造が面白く、八重子さん、久里子さんからは役の人柄や性格などが見えてきます」と、この芝居の真髄を語っている。

 明治時代、文明開化の波が押し寄せ、新たな演劇のムーブメントが巻き起こった中で、歌舞伎とは異なる新しい現代劇として生まれた<新派>。1888(明治21)年に、大阪新町座で壮士芝居として産声をあげた後、旧き良き日本の香りや美しさを明治・大正・昭和・平成と時代を超えて伝え続け、今年で135年を迎えた。

 波乃久里子は、61年16歳のとき初代水谷八重子(現・八重子の母)に憧れ新派に初参加し、翌年に入団した。二代目水谷八重子とともに劇団を支える看板女優である。「死ぬほど先代の八重子さんが好きでした。八重子先生が、〝叙情的リアリズム〟が新派だとおっしゃっていたのが、今でも心に刻まれています」と言う。

 渡辺えりは、「物事を顕微鏡で見るような芝居をするなんて、現代の演劇にはない。そんな小さな、些細な所作のようなものを拡大して見せてくれるのが新派の芝居の魅力。そして、内面のリアルさをナチュラルに演じるのが新派の真髄だと感じます。実際には湯呑に入っていないお茶をいかにも飲んでいるようにナチュラルを演じる。季節感みたいなことも、その芝居からは感じられます」と、憧れの新派初参加の昂奮を隠さない。

 そして、95年に二代目水谷八重子を襲名し、長年にわたり新派のリーダーとして劇団を引き入る水谷八重子は「明治・大正・昭和の日本人の細やかだった感情、色気、風情、生きざまを芝居で演じられる唯一の劇団だと自負しています。日本人の心の故郷のような気がしていて、それを残すという意義を感じています。だから、明治の言葉は明治のイントネーション、昭和の言葉は昭和のイントネーションで語らなければいけない、そんな芝居をお見せできるのが新派です」と、新派女優としての誇りを見せつけてくれた。

 BS放送などでも昭和の流行歌が特集され、〝昭和は遠くなりにけり〟と昭和を偲ぶ人が決して少なくない令和の時代。新派公演『三婆』の舞台は、昭和に出合える芝居として、観客を惹きつけるだろう。


新派百三十五年記念 六月新派喜劇公演
三婆(さんばば)

原作:有吉佐和子
脚本:小幡欣治
演出:齋藤雅文
出演:水谷八重子 波乃久里子 渡辺えり
松本慎也 鴫原桂 上脇結友 田口守 ほか
〔公演日程〕6月3日(土)~6月25日(日)
〔会場〕三越劇場
〔問〕チケットホン松竹0570-000-489または03-6745-0888(10:00~17:00)

1 2

映画は死なず

新着記事

  • 2024.12.05
    雨の日に聴きたくなる「レイニーブルー」を歌った徳永...

    徳永英明「レイニーブルー」

  • 2024.12.03
    きわどい熟年女性の性愛表現から母の優しさまでフラン...

    『山逢いのホテルで』見どころ

  • 2024.12.03
    東京ステーションギャラリー「生誕120年 宮脇綾子...

    応募〆切: 1月20日(月)

  • 2024.12.02
    橋幸夫・舟木一夫・西郷輝彦・三田明の青春歌謡四天王...

    松竹青春歌謡映画のヒロイン 尾崎奈々

  • 2024.12.02
    大注目のボートレーサーが集結した「2025年 BO...

    応募〆切:12月20日(金)

  • 2024.11.28
    第5回【東宝映画スタア☆パレード】酒井和歌子&内藤...

    文=高田雅彦

  • 2024.11.28
    クリスタルキングが歌唱した「大都会」の唯一無二のハ...

    クリスタルキング「大都会」

  • 2024.11.27
    第55回【萩原朔美 スマホ散歩】いまどきのカバン考...

    見事な自己表現!

  • 2024.11.25
    クリスマス・イブに手塚治虫の歴史的名作が蘇る!映画...

    応募〆切:12月15日(日)

  • 2024.11.21
    「星影のワルツ」「北国の春」という2つの大ヒット曲...

    千昌夫「夕焼け雲」

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!