演劇・ミュージカル界の次世代を担うと期待されるPARCO劇場初主演の木村は、「愛情を言葉で表現しなくても伝わるものだという日本人らしい気質に、おそらく太宰は違和感を覚えたからこそ、言葉で伝える愛に惹かれこの作品を書いたのではないかと感じました。ハムレットの役を通して、太宰治の世界をどのように表現できるのか」と、ハムレットよろしく日々苦悩の世界に引きずりこまれていたと太宰の『新ハムレット』に対する自身の思いを語る。そして、「言葉がなくなりゃ、同時にこの世の中に愛情がなくなる」という自身のセリフを挙げ、この芝居が「愛」で成り立っていると言う。そして、愛は言葉で伝えなければならないとも。
今回、ラップも披露する木村だが、会見後のゲネプロでは、まず声に魅力を感じた。耳に届く声の響きが心地良い。そして現代人にも通じる、どこか都会人のもつ苦悩のようなものがその役から伝わってきた。次回作が楽しみな俳優である。
ポローニヤス役の池田は「ひと言で言うと、問題作だと思います。詩劇のように朗々と語るかと思いきや、人情劇みたいなところもある。人間って、こんなにしゃべるのかと観る人が呆れるほど、登場人物たちはしゃべります。観た人は、問題作だったと言って宣伝してもらえれば」と言う。確かに、悩み多き人物たちがみんなよくしゃべる。あの哀れなオフヰリヤさえも饒舌である。〝言葉〟が、太宰の『新ハムレット』なのである。池田からは嬉々としてポローニヤス役を演じているのが伝わってきて、観客をニンマリとさせる。
ガーツルード役の松下は「今までに感じたことのないハムレット作品になっていると思います。ハムレット像がシェイクスピアのハムレットとはまるで違うイメージで、いわゆる復讐劇ではないというのが、セリフから伝わります。『ハムレット』がぐっと身近に観客の方々の心に届けられると感じています」とコメントしたが、松下のガーツルードも、シェイクスピアとはまた趣が異なる。松下は姿もよく、背筋を伸ばして堂々と歩く姿は、これまで観てきた芝居のいずれのガーツルードとも違う雰囲気をまとっているように感じた。
クローヂヤス役の平田は「昔話のような仕立てもありつつ、現代的なところも感じさせられる作品。クローヂヤスは、とても小心な人間で、自分自身にも「強くなれ、クローヂヤス」というセリフを言い聞かせています」と。『新ハムレット』のクローヂヤスだから平田満の役なのだということを、シェイクスピアの描いた狡猾な人物というより、どこか愛される要素を備えた人物として、ときに軽妙に、ときにしたたかに自在に演じながら、説得力を持って魅せてくれる。
ハムレットの「言葉のない愛に実体はない」というセリフ、また、劇中で幾度となく出てくる「あなたもハムレットにそっくりね」というセリフは、観客の心にグッと入り込んでくるのではないだろうか。シェイクスピアの『ハムレット』を乗っ取った(!?)太宰治の『新ハムレット』には、日本人の記憶に残るセリフがちりばめられている。観るべき芝居であろう。
PARCO劇場開場50周年記念シリーズ
新ハムレット
~太宰治、シェイクスピアを乗っとる!?~
作:太宰治
上演台本・演出:五戸真理枝
出演:木村達成 島崎遥香 加藤諒 駒井健介/池田成志 松下由樹 平田満
<東京公演>
〔公演日程〕6月6日(火)~6月25日(日)
〔会場〕PARCO劇場(渋谷PARCO 8F)
〔問〕パルコステージ03-3477-5858
<福岡公演>
〔公演日程〕7月6日(木)
〔会場〕久留米シティプラザ ザ・グランドホール
〔問〕ピクニックチケットセンター050-3539-8330(平日12:00~15:00)
<大阪公演>
〔公演日程〕7月9日(日)
〔会場〕森ノ宮ピロティホール
〔問〕キョードーインフォメーション0570-200-888(平日11:00~18:00 日・祝休み)
※未就学児の入場はご遠慮ください。