初日前会見には演出家、そして6人の出演者たちがそろい会見した。演出家のジョー・ヒル=ギビンズは、50年代のアメリカの違法移民問題を描きながら、現代でも世界で起こっている難民問題に対して、この作品が何を伝えたいのかに焦点を当てつつも、ある家族を浮き彫りにした作品でもあるということで、いずれの国の人々にも何かを感じてもらえるはずだ、と演出のポイントを語る。坂井真紀は、演出家の言葉を受けるように、50年以上前の作品ながら、現代にも強く訴える色褪せないメッセージを持った作品だと。
初舞台の福地桃子は、舞台経験者の俳優たちの中で一人初舞台というコンプレックスのようなものを感じることもなく、長い時間をかけて信頼できる仲間と作品を創り上げていく、幸せな初体験ができた、と初舞台の喜びを語り、ゲネプロでものびのびと演じていた。和田正人は、セリフ量が膨大で、日々稽古を重ねていくなかで、カンパニーの関係が強固になり、いい作品を届けられることを確信したと。高橋克実は、演出家ジョーの演出は、実に細かく丁寧で、というよりはむしろ、諦めないという執念深さで、客席に届けるものを創り上げていった、と演出家との初仕事の印象を語った。松島庄汰は、すばらしい美術や衣装だけてはなく、役者の印象が観る人の心に伝わるように努めたいと。さらに、伊藤英明の、稽古に対する姿勢が本当に勉強になったとも。松島の証言によれば、伊藤は、稽古開始の3時間前から稽古場に入っていたという。それぞれのコメントから、この作品への熱い思いが伝わってくる。
そして、伊藤英明は、「50歳を目前に、舞台に向き合いたいと思っていたところ、この作品と、演出家のジョーに巡り合えました。毎日、積み上げたものがまたゼロになり、というようなことを繰り返しながら、13年前とは違う感覚の舞台作りの手応えを楽しむことができました。役に向き合う過程で、俳優の面白さというものを、新たに感じることができたと思います」と、13年ぶりの舞台出演の大きな意義をつかみ取ったように感じさせてくれた。
そして、愛ある男が怒る男となる中で、静かな怒り、いらだちの怒り、哀しい怒り、愚かな怒り、理不尽な怒りなど、怒りの表情を細やかに演じてみせた。スリリングであり、観る人の心に余韻を残す作品だと受け取った。伊藤英明には、この先、間を置かず、舞台出演を続け「舞台俳優・伊藤英明」のさまざまな貌を見せてほしいものだ。