長澤まさみと森山未來と言えば、すぐに浮かぶのが社会現象にもなった2004年の大ヒット映画『世界の中心で、愛を叫ぶ』だ。長澤は、17歳で白血病で死んでしまうヒロイン・アキを演じ清純でピュアなイメージを観る者に焼き付け、ブルーリボン賞助演女優賞、日本アカデミー賞最優秀助演女優賞などに輝いた。また、森山は映画初出演ながら、最愛の人を失ってしまう主人公・朔太郎の高校時代という大役を務め上げ高い評価を得て、ブルーリボン賞新人賞を受賞した。
その後2011年には映画『モテキ』で再び共演し、作品は興行収入22億円を超える大ヒット記録を打ち立て、長澤はブルーリボン賞助演女優賞を、森山は毎日映画コンクール男優主演賞にそれぞれ輝いた。俳優としての相性がいいのだろうか、互いを刺激し合えるのか、役柄に向き合うそれぞれの姿勢が、互いの俳優としての資質を引き出し合い、共演映画で、二人とも映画賞受賞という結果を出している。
その後の二人の活躍にはめざましいものがある。長澤まさみは『散歩する侵略者』で毎日映画コンクール女優主演賞、『コンフィデスマンJP』でブルーリボン賞主演女優賞、『MOTHER マザー』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞など多くの女優賞に輝き、森山未來もまた、『苦役列車』でキネマ旬報ベスト・テン主演男優賞、『アンダードッグ』で、毎日映画コンクール男優主演賞、キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞に輝く、といった具合に映画だけに目をやっても確実に成果をあげ、現代を代表する俳優と言っても異論を唱える人はいないだろう。
その二人が、今回ついに舞台で正面から向き合うことになった。4月10日にTHEATER MILANO-Zaで幕を開けた『おどる夫婦』だ。『モテキ』での共演以来、約14年ぶりのタッグを組む。二人の舞台初共演というだけでも、胸が躍るが、蓬莱竜太の新作書き下ろしで、演出も担当するというのだから見過ごすわけにはいかない。
蓬莱竜太は、1999年の劇団モダンスイマーズの旗揚げ依頼、全作品の作・演出を務め、2019年の劇団公園『ビューティフルワールド』において読売演劇大賞演出家賞を受賞している。外部公演も数多く手がけ『まほろば』(2008年、栗山民也演出)で岸田國士戯曲賞、『母と惑星について、および自転する女たちの記録』(2016年、栗山民也演出)で鶴屋南北戯曲賞、『消えていくなら朝』(2018年、宮田慶子演出)でハヤカワ悲劇喜劇賞など数多くの演劇賞に輝き、その名を広く知られることになる。Bunkamura主催の公演では、2022年のシアターコクーンで上演の天海祐希&鈴木亮平ダブル主演の『広島ジャンゴ2022』で作・演出を務め、今作が二度目の登場となる。
物語は、2011年東日本大震災を機に恋愛感情のないまま、あいまいに結婚した夫婦のおよそ10年間が描かれる。10年の間には、広島土砂災害、パリ同時多発テロ、熊本地震、新型コロナウイルスのパンデミックなど、決して対岸の火事ではない、全世界で人びとが翻弄される大事件が起きている。そんな世界状況のなか、長澤演じるキヌと森山演じるヒロヒコの夫婦にも、共に生活する中でほころびやズレが生じる。

キヌは容姿にも才能にも恵まれた舞台衣装デザイナーだが、生きづらさを抱え感情表現ができないモヤモヤを抱いている。作家志望のヒロヒコは、社会とうまく折り合いをつけることができず生きづらい人生を送っている。長澤まさみも森山未來も共に、人気俳優であり、その個性が魅力として人々に認知されているが、今作では、二人ともすでに確立している自身の名前に頼ることのない、その個性を抑え込んだような芝居を見せてくれているような印象を受けた。日常の営みでの言葉ほど、芝居の台詞として伝えるのは難しいと思えるのだが、長澤も森山も日常生活の言葉を演劇的な台詞として聴かせてくれる。

それはアイドルグループtimeleszのメンバー松島聡、皆川猿時、小野花梨、内田慈、岩瀬亮、内田紳一郎、そして伊藤蘭の共演者たちにも言える。それぞれの役柄の心の声が、台詞として表現されたとき、観客は、自身の心の声と重ねて聴くだろう。

蓬莱は、「世界には夫婦の物語が無数に溢れていますが、新たな挑戦としてまだ言葉が見つかっていないような男女の関係を自分なりに描きたいと思っています。多分甘くない話です。だけど力のある作品にしたいです」と今作について語っているが、言葉で表現しづらいモヤモヤとした思いを持つ登場人物たちの台詞が、それぞれのキャラクターを際立たせ、俳優の口をついて出たとき、確かな説得力をともなって伝わってきた。登場人物全員がこの物語の主人公とも言えるだろう。