22.11.11 update

三谷幸喜の原点とも言われる伝説のコメディが28年の時を経てリニューアル上演 「シス・カンパニー公演 ショウ・マスト・ゴー・オン」

 大河ドラマ「鎌倉殿の13人」も、クライマックスへと進む中、三谷幸喜が久しぶりに演劇界に帰ってくる。「THE SHOW MUST GO ON」、つまり「一度幕を開けたら、何があっても途中で幕を下ろしてはいけない」、という舞台人の鉄則とも言うべき言葉をタイトルにした芝居『ショウ・マスト・ゴー・オン』。三谷幸喜が書き下ろしたこの戯曲が、三谷主宰の劇団東京サンシャインボーイズで初演されたのは1991年だった。ある舞台公演での、スタッフや役者たちに次々と起こるトラブルをめぐるドタバタ劇は、上質の喜劇として、劇場を大きな笑いの渦に巻き込み、役者をはじめとする演劇人たちからも喝采を浴びた。その最後の上演となった94年から、28年の時を経て、三谷幸喜自らが手がけたリニューアル版の上演が福岡で幕を開けた。

 シェイクスピアの「マクベス」開幕を目前にして、バタついている劇場の舞台裏。客の会場時間は間もなくだというのに、肝心のマクベスを演じる座長役者の姿が見当たらない。さらには、劇場に来るはずの外国人演出家が迷子になってしまったり、演出部の若いスタッフが連絡もなく現れないなど、開演前から波乱の予感。あろうことか、舞台奥で眠り込んでいた座長を発見し、なんとか舞台袖まで引きずり出し、正気に戻そうとするが……。これはまだ序の口。何とか、「マクベス」の幕が上がったが、舞台裏では想定外のアクシデントが怒涛のように押し寄せる。さて、役者やスタッフたちは、この事態を切り抜けることができるのか。

 三谷幸喜が初監督をした97年の映画『ラジオの時間』を観たとき、91年に観たこの舞台が鮮やかによみがえった。三谷は、今回のリニューアルに当たって、令和という現代を意識したという。たとえば、劇団公演時には、西村雅彦(現・西村まさ彦)が演じた主役の舞台監督は、今回、鈴木京香が演じる。令和の時代、舞台現場では多くの女性たちが活躍している。また、マクベス役の座長が、老役者からかなり若返り、尾上松也が演じている。劇団公演では、寿命が危ない老役者をサポートするため、共演者やスタッフたちがてんやわんやする姿が大いに笑わせてくれた。初演時とはディテールは異なるものの、演劇公演の舞台裏というシチュエーションは変わることなく、次々と勃発するトラブルに対応していくハラハラドキドキのスリリングな笑いの質はパワーアップ。

 登場人物も増えていて、三谷作品ではおなじみのメンバーから、初参加となる新たなメンバーまで、総勢16名の強力な俳優たちが揃った。鈴木京香、尾上松也、シルビア・グラブ、小林隆、新納慎也、秋元才加、浅野和之ら、「鎌倉殿の13人」チームも出演。ただ、小林隆の負傷により、現在上演中の福岡公演では、三谷幸喜自身が代役を務めている。贅沢を言えば、小林バージョンも、三谷バージョンも観てみたい。

 思い切り笑える心地良さを味わえる、2022年の掉尾を飾るにふさわしいコメディ。2023年2月には、96年に初演された三谷幸喜の傑作二人芝居『笑の大学』が98以来25年ぶりの復活という嬉しいニュースも発表されるなか、『ショウ・マスト・ゴー・オン』の色褪せない笑いの質には、三谷幸喜の演劇人としてのあふれる才能に触れる喜びに、心も躍るはずである。

作・演出:三谷幸喜

出演:鈴木京香 尾上松也 ウエンツ瑛士 シルビア・グラブ 小林隆 新納慎也 今井朋彦 藤本隆宏 小澤雄太 峯村リエ 秋元才加 井上小百合 中島亜梨沙 大野泰広 荻野清子 浅野和之

<福岡公演>
〔公演日程〕11月7日(月)~11月13日(日)
〔会場〕キャナルシティ劇場
〔問〕キョードー西日本0570-09-2424(11:00~17:00 日祝休業)

<京都公演>
〔公演日程〕11月17日(木)~11月20日(日)
〔会場〕京都劇場
〔問〕キョードーインフォメーション0570-200-888(11:00~16:00 日祝休業)

<東京公演>
〔公演日程〕11月25日(金)~12月27日(火)
〔会場〕世田谷パブリックシアター
〔問〕世田谷パブリックシアターチケットセンター03-5432-1515(10:00~19:00)
※小学生未満のお子様はご入場いただけません。

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