散歩は、街を一冊の本のように読むことだ。だから、スマホでの撮影は、読書感想を忘れないための、メモ書きみたいなものなのだ。この「スマホ散歩」を読んでくれた人が、それぞれの街を読書し始めたらとても嬉しい。何か楽しい風景に出会えることを願っている。
第27回 2022年7月28日
近所にあった写真館の前を通る時、飾られてある家族写真に見入ってしまった。私は母子家庭だったので、そこには自分の知らない、一家団欒と言う世界が広がっていて、その未知の空気を感じたいと思ったのだった。
ところが、いざ自分が家族と言うものを作り上げると、写真館で家族写真を積極的に撮ろうという気が起こらない。連れ合いに促されて重い腰を上げる始末なのだ。近所にあった写真館がなくなってしまった事も積極性を失った原因かも知れない。
萩原朔太郎が妹のユキと撮影した大正時代の写真がある。前橋にある太田写真館での写真で、カメラは太田清吉さんだ。その太田写真館が前橋で現在も開業している。そこで、朔太郎の孫の私と、ユキの孫の三浦龍さんが同じポーズをとり、清吉さんの孫の太田康一さんにシャッターを切ってもらった。さらに、朔太郎の曾孫の萩原友と、ユキの曾孫の三浦ももこさんが同じことをやった。撮影は清吉さんの曾孫の太田奈々絵さんだ。写真館が何代にも継承されているから出来たパフォーマンスだ。さて、次にもう一枚撮影出来るかどうか。今はまだ分からない。
はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長、金沢美術工芸大学客員教授、アーツ前橋アドバイザーを務める。