実は本家の「ウルトラマン」でも、成城の街の風景は見られない。一部、世田谷体育館(第17話、第22話)や東宝撮影所の社屋ビルなどを使って撮影されたシーン(第28話:ダダとの対決)はあるが、特記すべき成城ロケの痕跡は確認できない。
そして、「セブン」に続く〝円谷ウルトラ・シリーズ〟第四弾となるのが「帰ってきたウルトラマン」(71~72年)。初放送時、すでに高校生になっていた筆者は、‶バカ映画の巨匠〟河崎実監督と違って、これをほとんど見ていない。河崎監督のぶれない「ウルトラ愛」には脱帽である。ところが、五十代も後半になり、たまたまCSで放送された第2話「タッコング大逆襲」を見て、これが円谷英二と共に東宝特撮映画を支えた本多猪四郎の監督作だっただけでなく、成城ロケ作品だったことを知る。
それは、新ウルトラマンの郷秀樹(男性化粧品のCMでお馴染みだった団次郎:のちに次朗を名乗る)が、勤務先の自動車修理工場経営者(岸田森)の妹・アキ(榊原るみ)が働くブティックを訪ねるシーン。画面では、ブティックの向かい側に「ミナミ」という美容室(現「成城サウスビル」)が見える。これで、ロケ現場が成城にあった洋装店「ガーベラ」であることは明らか。「ミナミ」は美容室の他にレストランとアパートも多角経営していて、レストランには、よく日活の撮影隊が来ていたという。
「ガーベラ」を出たアキが郷のあとを追うと、次のカットは「成城大飯店」(現在でも、「大」は取れたものの「成城飯店」として健在)のあるT字路となる。すると、この美男美女コンビは和菓子店「青柳」(浦山桐郎監督作『私が棄てた女』でロケ地となる)を背にして、『サザエさん』や『ニッポン無責任野郎』などでもお馴染みの洋品店「マルケー」方面に左折するという、実に不可解な行動をとる。何故かと言えば(ローカルな話題で恐縮だが)、これだと二人は元の「ガーベラ」に戻ってしまうからだ。本多監督も含め、成城の街をよく知る方には納得のいかぬルートであろうから、ついツッコミを入れさせていただいた次第だ。
なお、このブティック「ガーベラ」は、『続サザエさん』で江利チエミが買物し、『白鳥の歌なんか聞こえない』で岡田裕介がぶらついた成城北商店街にあり、隣には俳優・嵯峨善兵が経営するスナック「ゼム」や、のちに「くすりセイジョー」として全国展開を図る「成城薬局」という名の小さな薬屋があった。高級住宅地にしてこうした庶民的な商店街が併存する(当初から住宅地と商店街は明確に区分された)ところに、成城という街の面白さがある。
本シリーズは、舞台となる自動車修理工場自体が「東名高速」インター付近に位置している(この建物は近年まで健在であった)ことから、他の回でも成城の街(竜沢寺橋、桜並木)や東宝撮影所内、祖師ヶ谷大蔵駅前商店街に前述の世田谷体育館前など、成城近辺でしばしばロケが行われている。それに、ヒロインの榊原るみが新番組「気になる嫁さん」に専念するため、シリーズ途中で降板したこと(それも宇宙人・ナックル星人に殺されて)もよく知られる話。こちらも全編に亘り成城でロケされた作品なので、いずれ詳しくご紹介させていただきたい。
高田 雅彦(たかだ まさひこ)
1955年1月、山形市生まれ。生家が東宝映画封切館の株主だったことから、幼少時より東宝作品に親しむ。黒澤映画、クレージー映画、特撮作品には特に熱中。三船敏郎と植木等、ゴジラが三大アイドルとなる。東宝撮影所が近いという理由で選んだ成城大卒業後は、成城学園に勤務。ライフワークとして、東宝を中心とした日本映画研究を続ける。現在は、成城近辺の「ロケ地巡りツアー」講師や映画講座、映画文筆を中心に活動、クレージー・ソングの再現に注力するバンドマンでもある。著書に『成城映画散歩』(白桃書房)、『三船敏郎、この10本』(同)、『七人の侍 ロケ地の謎を探る』(アルファベータブックス)、近著として『今だから! 植木等』(同2022年1月刊)がある。