成城には、四丁目(正確には成城4-20-25)に古いが立派な洋館がある。現在では、世田谷区の「公園用地」となり、門には「成城みつ池 旧山田邸」の表札が掲げられる家である。
何せこの邸宅、長い歴史をもつ(昭和12年頃の建築とされる)洋館で、その外観も瀟洒の一語。知人を介して元の持ち主の親族にコンタクトを取ってみると、この邸宅では向田邦子原作のテレビドラマを映画化した『あ・うん』(89年:降旗康男監督、高倉健主演)のほか、テレビドラマでは「ミラーマン」(71〜72年/CX系)、石原裕次郎の人気刑事もの「太陽にほえろ!」(72~86年/NTV系=東宝テレビ部)などの撮影が行われたという。
早速『あ・うん』を見てみると、山田邸は高倉健と宮本信子夫妻の自宅に設定されており、富司純子・富田靖子の母娘が訪ねてくるシーンが当邸の玄関テラスで撮影されている。原作も太平洋戦争直前の東京を舞台としているので、時代考証的にはまさにドンピシャのロケ地だったわけだ。
71年から72年にかけて放送された円谷プロの特撮テレビドラマ「ミラーマン」は、地球外侵略者からこの世界を守るため異次元世界からやって来た〈超人〉が主人公。放送時期は「帰ってきたウルトラマン」とほぼ同時期にあたる。
「太陽にほえろ!」では、ある会社社長がゴルフの練習中に自宅で殺害されるという事件が発生、山さん(露口茂)、ゴリさん(竜雷太)、長さん(下川辰平)ら七曲署の刑事たちが山田邸まで出動する。ところが、「ミラーマン」のロケでは、当のヒーロー・ミラーマンが家の屋根目がけて光線武器(火花)をバンバン放ったことから、裏庭でボヤが発生。山田家の当主が激怒して、これを機に家を撮影に提供するのはご法度となってしまう。
ただ、円谷プロの名誉のために一言申し添えておくと、ボヤは消火活動を要したり、消防車を呼んだりするような深刻なものではなかったというから、この時はよほど当主のご機嫌が悪かったものと見える。
実際、その後も、当山田邸は西城秀樹が主演した『愛と誠』(74年/山根成之監督)で早乙女愛の自宅となったほか(送迎車での帰宅をメイド二名が迎える。父親の鈴木瑞穂は庭でゴルフの練習中)、木之内みどりのお子様向け刑事ドラマ「刑事犬カール」(77~78年/TBS系)や「家政婦は見た!」(83年~/テレビ朝日系)(註2)、それに前述の『あ・うん』などでその姿を見ることができるので、どこかの時点でロケ禁止令は解かれたのだろう。
かつては「洋館の多い、まるで公園のような街」と称された成城だが、今や「ウルトラQ」で一の谷研究所となった旧龍野邸とこの旧山田邸がその名残をとどめるのみ。当邸は「旧山田家住宅」として一般公開もされているので、成城にお越しの際は是非お訪ねいただきたい。