1932年、東宝の前身である P.C.L.(写真化学研究所)が
成城に撮影用の大ステージを建設し、東宝撮影所、砧撮影所などと呼ばれた。
以来、成城の地には映画監督や、スター俳優たちが居を構えるようになり、
昭和の成城の街はさしずめ日本のビバリーヒルズといった様相を呈していた。
街を歩けば、三船敏郎がゴムぞうりで散歩していたり、
自転車に乗った司葉子に遭遇するのも日常のスケッチだった。
成城に住んだキラ星のごとき映画人たちのとっておきのエピソード、
成城のあの場所、この場所で撮影された映画の数々をご紹介しながら
あの輝きにあふれた昭和の銀幕散歩へと出かけるとしましょう。
成城が舞台となったテレビドラマは、なにも円谷プロ作品だけではない。今回は数々のテレビドラマで見られる成城の風景を追っていこう。
まずは、前回触れた「気になる嫁さん」(71〜72年/NTV系)から。何せこの番組、全四十話中たった一話を除いて、すべての回で成城の風景が見られる〈成城ロケ・ドラマの決定版〉のような作品なのだ。
‶宇宙人に殺された〟という理由で「帰って来たウルトラマン」を降板した榊原るみがヒロインを務める本作は、結婚相手(関口守:関口宏の実弟)が死去した後も嫁ぎ先に同居を続けるめぐみ(榊原)と、その家族(佐野周二、山田吾一、水野久美、石立鉄男ら)との温かい交流を描くファミリードラマ。第1話から成城学園正門前の風景が見られるが、最も多く登場する嫁ぎ先の清水家は、労働科学研究所(現在の成城ハイム)前を走る小田急線南側の坂道を下りきったあたり(住所は砧八丁目31)にあった。この坂道は多くのウルトラ・シリーズのほか、宇津井健主演の新東宝映画『鋼鉄の巨人 地球滅亡寸前』(57年/石井輝男監督)にも登場する。
当家からも程近い、仙川に架かる小橋もしばしばロケ現場となっており、末っ子に扮した山本紀彦は「赤い迷路」でも、まったく同じ場所で山口百恵と芝居をしている。