24.01.25 update

第35回【成城シネマトリビア】 「気になる嫁さん」「赤い迷路」「傷だらけの天使」などで見る成城の風景 テレビドラマ篇 Vol.4

 成城にはかつて、大岡昇平や三船敏郎が愛した「栄華飯店」という中華料理店があった。筆者は74年の秋に百恵ちゃんと共演の松田優作が当店で食事している場を目撃、宇津井の自宅内シーンが隣接する住宅展示場で撮影されていたことを知る。
 そうした撮影事情もあって、本「赤い迷路」では成城のいちょう並木(まさに宇津井の自宅があった)や交差する桜並木通りで頻繁にロケが実施。宇津井や長山藍子、中野良子がいちょう並木を歩き、百恵ちゃんが桜並木通りを使って通学する姿などが撮影されている。

 他にも本作、映画『世界を賭ける恋』(59年)や『サザエさんとエプロンおばさん』(60年)に登場した「富士見橋」上で松田優作と山本紀彦が格闘したり、成城コンド前で怪しい男たちに襲われた百恵ちゃんを優作が救出したりするなど、成城の風景が頻出。隣の「仙川に架かる小橋」の方では、百恵ちゃんが優作や山本紀彦らと会話を交わすシーンもある。
 注目すべきは、登場人物の一人・大石吾郎が経営し、百恵ちゃんもしょっちゅう出入りするスナック「ビレッジ」が、成城二丁目に実在した喫茶店「シャネル」を使って撮影されていることだ。当店はとうの昔に閉店しているが、その外観はドラマで使われた時とまったく変わっていない。

▲成城に今も残る喫茶店・シャネル。今にも大石吾郎や百恵ちゃんが出てきそうだ(筆者撮影)

 ショーケンの異色作「傷だらけの天使」(74〜75年/NTV系)も、ことのほか成城ロケが多い。恩地日出夫、深作欣二、神代辰巳、鈴木英夫ら、錚々たる映画監督がメガホンをとった探偵ドラマの本作。尖ったショーケン(修)と人懐っこい水谷豊(アキラ)とのすっ呆けたやり取りが愉しく、筋立てにも従来のテレビドラマとは違う斬新な魅力があった。
 成城の風景が登場するのは、恩地日出夫、児玉進、工藤栄一が担当した三話。恩地作(15話)では、修がいちょう並木で誘拐された男子高校生の聞き込みをする際、バックに旧宇津井健邸が写り込む。並木道を北に入ると右手に神田隆の家があり、『青春の蹉跌』でショーケンが檀ふみと自転車で戯れた桜並木通りは、神田邸のすぐ先にあたる。
 児玉作(20話)で修とアキラの二人が拾った赤ん坊を捨てに来るのも成城で、この時二人はやはりいちょう並木を歩く。「太陽にほえろ!」で張り込み対象となった「竜沢寺橋」横のアパート(部屋まで同じ!)のシーンで聴こえてくるのは、懐かしい小田急ロマンスカーの警報音。ザ・ピーナッツが歌った「小田急ピーポの電車」で有名なこの補助警報(ミュージックホーン)も、やがて騒音問題により鳴らされなくなってしまう。
 工藤作の第25話では、またしてもいちょう並木を通って調査対象となる人気作家(小松方正)の家を訪ねる二人。それだけこの並木道は〝絵になった〟ということなのだろう。

1 2 3 4

映画は死なず

新着記事

  • 2024.11.21
    「星影のワルツ」「北国の春」という2つの大ヒット曲...

    千昌夫「夕焼け雲」

  • 2024.11.20
    能登の子どもたちや被災者を、美しい音楽で励ましてく...

    被災者に勇気を与えるウイーン・フィルの活動

  • 2024.11.20
    指揮・坂本龍一✕東京フィルハーモニー交響楽団による...

    坂本龍一の伝説のコンサートを映画館で!

  • 2024.11.19
    ベートーヴェン「第九」初演から200周年の記念すべ...

    12月31日特別先行上映、1月3日から1週間限定公開!

  • 2024.11.19
    敷寝具から枕まで世界最大級の熟睡ブランド、〈マニフ...

    特別モデル【エコ サンドロ】限定3000台の予約開始!

  • 2024.11.18
    公募展の発祥地〈東京都美術館〉のテーマは「ノスタル...

    芸術活動を活性化させ、鑑賞の体験を深める

  • 2024.11.18
    女優「高峰秀子」と妻「松山秀子」─日本映画史に燦然...

    高峰秀子という生き方

  • 2024.11.15
    本格イタリアンをご家庭で、日清製粉ウェルナの「青の...

    応募〆切: 12月20日(金)

  • 2024.11.15
    京都のグンゼ博物苑で、昭和の激動時代の魅力を伝える...

    グンゼの創業の地で、「昭和レトロ展」

  • 2024.11.14
    「嵐」と並ぶシングル58曲連続トップテン入りを果た...

    THE ARFEE「メリーアン」

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!