24.02.28 update

第10回 小林武史、三上博史、山口智子、種田陽平……映画『スワロウテイル』のすばらしき仲間たち。そして僕はフジテレビを離れる覚悟ができた

1981年ジテレビジョンに入社後、編成局映画部に配属され「ゴールデン洋画劇場」を担当することになった河井真也さん。そこから河井さんの映画人生が始まった。
『南極物語』での製作デスクを皮切りに、『私をスキーに連れてって』『Love Letter』『スワロウテイル』『リング』『らせん』『愛のむきだし』など多くの作品にプロデューサーとして携わり、劇場「シネスイッチ」を立ち上げ、『ニュー・シネマ・パラダイス』という大ヒット作品も誕生させた。
テレビ局社員として映画と格闘し、数々の〝夢〟と〝奇跡〟の瞬間も体験した河井さん。
この、連載は映画と人生を共にしたテレビ局社員の汗と涙、愛と夢が詰まった感動の一大青春巨編である。


 最も様々な決断を迫られたのは映画『スワロウテイル』だ。
 ある意味では『Undo』も『Picnic』も『Love Letter』(1995)も、最初に読ませてもらった『スワロウテイル』(1996)を実現するための過程でもあった。
『Love Letter』の製作を強行したためにクランクイン前に突然、編成部へ異動になった。当時、12年間連続視聴率NO1の編成部を経験できたことは、テレビ局の今、未来を考える上では、とても貴重な体験の日々だった。ただ、編成部で映画の製作は厳しく、2時間ドラマを担当しながらも、『スワロウテイル』の実現化は諦められなかった。

 大きな出会いの1つは音楽家の小林武史さんとの縁だった。
 ある女優を介して彼がプロデュースするMr.Children(ミスター・チルドレン)の映画の話に来られた。アルバム『Atomic Heart(アトミック・ハート)』(1994)が280万枚のヒット中だった。『Love Letter』が進行中の頃だと思うが、編成部所属で原則、映画にタッチ出来ない。
 ダメ元で編成局長に相談、談判? した。当時は直ぐにYESと言ってもらえるはずもないが、条件が出て、それをクリアすれば考えてもらえると。これは『私をスキーに連れてって』(1987)の編成担当役員&編成局長(当時)と同じパターンだ。

①本名では無くペンネームで

②大人気のミスチルを、始まったばかりの歌番組「Hey!Hey!Hey!」に出演させること

③編成部の業務に支障なきように……

 他にもあったかも知れないが、この3つは難しいことではなかった。

 ①は【Koike Shinya】とした。【古池】は母の旧姓である。②は今ではちょっと考えにくいが、ミスチルのレコード会社<トイズファクトリー>が日テレ系でフジテレビになかなか出演してもらえなかったゆえ。これは小林武史さんのお力で。③はそんなに大変な業務はなかったので大丈夫……。
 これで『Mr.Children in FILM【es】』(1995)が誕生することになる。そしてこの映画の実現化が無ければ『スワロウテイル』の映画化もなかっただろう。

『Love Letter』を観てくれた小林武史さんは大いに気に入ってくれ、ここで「岩井俊二&小林武史」のコンビが生まれることになる。二人はサザンオールスターズのPV等を介して知り合いだったが、仕事はこの映画が初めてとなった。

▲1996年9月14日に公開された映画『スワロウテイル』の脚本は監督の岩井俊二自らが手がけ、最初にわたされたロングストーリーの台本から10冊以上が製本された。最後は絵コンテ付きの台本だった。架空の歴史をたどった日本にある<円都(イェン・タウン)>を舞台に、<円>が世界で一番強かった時代に一獲千金を求めて日本にやってきた移民たちを無国籍風な世界観で描いた作品。主演は三上博史、CHARA、伊藤歩。CHARAが演じるグリコがボーカリストをつとめる作中の無国籍バンド<YEN TOWN BAND>名義のサウンドトラックが、96年9月に発売された。映画で使用された8曲が収められており、2003年と15年にはメンバーをそろえてライブも開催されている。オリジナル・メンバーは、ボーカルのCHARA、プロデューサーで、キーボード、ギターの小林武史、ギターの名越由貴夫、作詞・コンセプト統轄の岩井俊二の4人で、レコーディングの演奏者は楽曲ごとに異なる。96年7月リリースのシングル「Swallowtail Batterfly~あいのうた~」は、オリコン・チャートで1位を記録し、約85万枚セールスの大ヒットとなった。

1 2 3 4 5

映画は死なず

新着記事

  • 2024.09.18
    虎ノ門ヒルズで芸術の秋を楽しむイベント 10月5日...

    秋の草花や個性的な雑貨の店が出店!

  • 2024.09.17
    台湾の古い理髪店の心温まる物語『本日公休』

    9月20日(金)全国順次公開

  • 2024.09.17
    生誕100年、時代の先端をとらえ続けた表現者の全貌...

    10月12日(土)~12月8日(日)

  • 2024.09.17
    コーダの青年になった吉沢亮の名演技に泣く、耳のきこ...

    9月20日(金)全国公開

  • 2024.09.13
    アメリカ合衆国、内戦勃発!再び起こり得る〈南北戦争...

    10月4日(金)全国公開

  • 2024.09.13
    国立西洋美術館「モネ 睡蓮のとき 」観賞券

    応募〆切:10月10日(木)

  • 2024.09.12
    堤真一&瀬戸康史、大東駿介&浅野和之という2組によ...

    公演:東京、大阪、福岡

  • 2024.09.12
    谷村新司、堀内孝雄、元モーニング娘の安倍なつみ、や...

    水越恵子「Too far away」

  • 2024.09.12
    SOMPO美術館「カナレットとヴェネツィアの輝き」...

    応募〆切:10月10日(木)

  • 2024.09.11
    新選組・副隊長の土方歳三をニヒルな風貌と演技で天下...

    土方歳三の雛型を創り上げた栗塚 旭

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial