24.02.28 update

第10回【私を映画に連れてって!】 小林武史、三上博史、山口智子、種田陽平……映画『スワロウテイル』のすばらしき仲間たち。そして僕はフジテレビを離れる覚悟ができた

 結局、殆どを日本人俳優で行くことになり、プロデューサーとしては、製作費も高いので、ヒットを目指し、スター俳優を多く起用することにした。
 その一人が山口智子さんだった。『七人のおたく』(1992)にも出演してもらい、個人的にも知り合いであり、岩井監督とは『Undo』(1994)で一緒だった。出演はすんなり決まったが、4月からの月9ドラマ「ロングバケーション」に出演が決まっていた。ドラマ撮影は3月初旬からだ。映画は主演ではなかったがドラマの撮影からの逆算で2月23日からのスケジュールを映画用にもらった。江口洋介さんも僕がやっていた『ACRI』(石井竜也監督/1996)のオーストラリア撮影から帰国後、そのまま参加してもらう段取りだった。
 主演の三上博史さん、CHARAさん、渡部篤郎さんはほぼ日本語を喋らない役だ。三上博史さんは全編、中国語と英語だけだ。中国語の個人レッスン(特訓)は凄まじいものがあった。

 そこに香港からスタッフが全員帰国した。

 助監督(演出部)ら中心にクランクイン延期必至を迫られる。普通に考えれば、これから1か月後に、撮影場所も決まっていない中で、どうやって準備するのか?……御尤もである。しかも無国籍感のあるセットは必須……。

 こういう時、プロデューサーとして判断は辛いものである。

 ここは、〝撮影所育ちの常識〟を備えていない岩井俊二監督のバランス感覚に救われる。

 此方の立場で言いたいことも色々ある。せっかく山口智子さんの出演も決まって、メジャー感を出しながら製作を進めていきたい。クランクインをずらすと彼女を含めて出演できなくなる俳優が数人いるのである。しかも公開を9月に予定していた。公開をずらすのは大きなダメージを伴う。美術監督の種田陽平さんらの前向きな発言もあり、一刻も早く場所を見つけ、無国籍感のある大きなセットも作らなくては行けない! の方向に……。

〝突貫工事〟の決定をした。

 結局、湾岸、浦安地域にオープンセットも作り、有明の倉庫では「阿片街」なるものも誕生する。約1か月でクランクインまで漕ぎつけることになる。

 初日、山口智子さんの浅草辺りから撮影開始になったが3日後の撮影場所が決まらず、自転車操業が続く。レコード会社(設定)の中が借りられず、官舎の廃屋のような場所で撮ったり……、撮影とロケハンの繰り返し……。2か月以上の撮影で、結局クランクアップはGWになり、1週間位延びただろうか。それでもラストシーンを撮り終えた時は嬉しかった。皆に感謝だ。

 他にも、イマジカでのポストプロダクションが突然LAのフォトケムに変わって、監督らはLAに3か月滞在になったり、結局完成は9月になってしまったり……。現像のフィルムの質感に撮影監督の篠田昇さんと岩井俊二監督の拘りはモノ凄いものがあり、理想を求めてのLA行きだった。自分はこの時は毎日、東京で円とドルの為替相場を見る日々だった。

▲1997年、『スワロウテイル』上映で出席したモスクワ国際映画祭での岩井俊二監督と筆者。この時代は、まだ共産主義の名残があり、宿泊のホテルも元共産党の施設で、入念なボディ・チェックがあったという。だが、映画『デルス・ウザーラ』に関わっていた人物の家に招待されたりと、親日の人たちも多かったという。さて、現在はどうなのであろうか。モスクワ国際映画祭といえば、61年には新藤兼人監督が『裸の島』でグランプリを受賞している。

1 2 3 4 5

映画は死なず

新着記事

  • 2024.11.21
    「星影のワルツ」「北国の春」という2つの大ヒット曲...

    千昌夫「夕焼け雲」

  • 2024.11.20
    能登の子どもたちや被災者を、美しい音楽で励ましてく...

    被災者に勇気を与えるウイーン・フィルの活動

  • 2024.11.20
    指揮・坂本龍一✕東京フィルハーモニー交響楽団による...

    坂本龍一の伝説のコンサートを映画館で!

  • 2024.11.19
    ベートーヴェン「第九」初演から200周年の記念すべ...

    12月31日特別先行上映、1月3日から1週間限定公開!

  • 2024.11.19
    敷寝具から枕まで世界最大級の熟睡ブランド、〈マニフ...

    特別モデル【エコ サンドロ】限定3000台の予約開始!

  • 2024.11.18
    公募展の発祥地〈東京都美術館〉のテーマは「ノスタル...

    芸術活動を活性化させ、鑑賞の体験を深める

  • 2024.11.18
    女優「高峰秀子」と妻「松山秀子」─日本映画史に燦然...

    高峰秀子という生き方

  • 2024.11.15
    本格イタリアンをご家庭で、日清製粉ウェルナの「青の...

    応募〆切: 12月20日(金)

  • 2024.11.15
    京都のグンゼ博物苑で、昭和の激動時代の魅力を伝える...

    グンゼの創業の地で、「昭和レトロ展」

  • 2024.11.14
    「嵐」と並ぶシングル58曲連続トップテン入りを果た...

    THE ARFEE「メリーアン」

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!