『時代』出演時の植木の忙しさたるや、尋常なものでなかった。テレビや舞台、レコーディングに取材と、時間はいくらあっても足らず、映画の撮影には早朝の1時間半と深夜10時以降しかスケジュールが取れなかったという。そこで、植木には〝影武者〟が必要となり、これを請け負ったのが勝部義夫という役者だった。
昭和30年代初頭から、東宝「Bホーム」俳優として様々な映画に出演していた勝部。いわゆる「大部屋」俳優であるから、ひとつの作品に通行人やらバーテンやら新聞記者やら、三つも四つもの役で登場することもしばしば。怪獣・特撮モノはもちろん、クレージー映画にもほとんどの作品に出演している(中でも凄いのは『ホラ吹き太閤記』の五役!)(※5)。
「本人がいないとき、手のアップ、相手と会話をするっていうシーンの背中は、全部僕なんですよ」
これは勝部自身の証言(「しまね映画祭」10周年記念誌)だが、確かに二人の体形は酷似しており、植木のスタンドインを務めるには最適の人物と言える。続編『ニッポン無責任野郎』で、植木が「無責任一代男」を歌うシーンにアベックの通行人として登場した勝部義夫が、『時代』で植木本人が着た黄土色のスーツを身に着けているのが、その何よりの証しである。