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第6回【東宝映画スタア☆パレード】植木 等 ─ もうひとつの「アナザーストーリーズ」

 勝部はこうして端役として出演もしながら、植木不在の際に代わりにテストやリハーサルをこなしていたのであろう。この方こそ、第二の視点になるべき人物であるが、残念ながら2023年5月に故郷の島根で没しており、もう話を聞くことはできない。
 あんなにハンサムな顔立ちなのに、何ゆえに主役級の「Aホーム」俳優になれなかったのか――、桜井浩子さんに訊いてみたことがあるが、その答えはまたの機会にお伝えしたい。

 
 これはピアニストの世良譲さんから直接伺った話。「スーダラ節」を歌うにあたり、悩んだ植木が父親・徹誠氏からもらった「この歌は親鸞の教えにも通じる。迷わず歌え」なる助言は、世良さんに言わせれば「マユツバ」だという。こうした逸話も植木さんのサービス精神の発露かもしれず、どうやら話半分で聞いた方がよさそうだ。(※6)。

 
 第三の視点ではないが、公開当時『時代』を認めた人についても語らねばならない。
 なにせ本作を評価したのは小林信彦と大島渚くらい。「キネマ旬報」のベストテンに入れたのはたった一人で、「映画評論」でも小林と佐藤忠男の二人だけだったというから、評論家筋からは完全に無視されていた事実が窺える。
 そんな中、東宝内部でこれを推しに推したのが外国部の渡邊毅氏である。番組にも筆者の紹介で登場しているが、この方の功績は本作を海外に売り出したことにある。つけた英題は『ハッピー・ゴー・スリッキー(〝調子のいい奴〟の意)』。「これで東宝は、10年メシが食える」と主張する渡邊氏の稟議書に決済を下したのは、かの川喜多長政(当時外国部顧問)なのだという。しかし、『時代』が東南アジアで大売れしたことも、ほとんど語られることはない。

 
 やはり東宝女優で、小谷承靖監督の奥様だった田辺和佳子さんが、筆者への手紙の中で植木さんについて語った言葉をもって、本稿の締めとしたい。


「植木さんは、やさしい、思いやりの気持ちをお持ちでした。セットに入ると、照明部の〝お二階さん〟にも、『お早よう! 今日も、いい男に写るよう照らしてくれよ』と声をかけ、皆で大笑い。リラックスして、古澤憲吾監督の『シュートする~』の声を聞いたものです」
 何だか「こりゃ泣けてくる」話ではないか。



※1 植木の東宝スクリーン初お目見えは、グループ全員で出演した『裸の大将』(58)。

※2 平均のモデルとなった人物が起こした大事件や国民栄誉賞未受賞の理由については、拙著『今だから!植木等』を参照されたい。

※3 田波は自著で、この脚本を「ハードボイルド小説へのオマージュのつもり」で書いたと証言している。

※4 植木自身が80年代初頭の再ブレイクあたりまで嫌悪感を抱き続けた無責任男よりも、こちらの方が数段〈嫌な奴〉に見えるが、植木がこの映画について語ることはなかった。

※5 バタ臭い顔つきのせいか黒澤明から疎まれた勝部は、黒澤映画への出演は『隠し砦の三悪人』一本のみ。

※6 植木本人のサービス精神から生まれたホラ話は、これ以外にも「お呼びでない」ギャグ誕生に纏わる逸話(小松政夫の〝出番の声がけミス〟から始まった)がある。



高田 雅彦(たかだ まさひこ)
1955年1月、山形市生まれ。生家が東宝映画封切館の株主だったことから、幼少時より東宝作品に親しむ。黒澤映画、クレージー映画、特撮作品には特に熱中。三船敏郎と植木等、ゴジラが三大アイドルとなる。東宝撮影所が近いという理由で選んだ成城大卒業後は、成城学園に勤務。ライフワークとして、東宝を中心とした日本映画研究を続ける。現在は、成城近辺の「ロケ地巡りツアー」講師や映画講座、映画文筆を中心に活動、クレージー・ソングの再現に注力するバンドマンでもある。著書に『成城映画散歩』(白桃書房)、『三船敏郎、この10本』(同)、『七人の侍 ロケ地の謎を探る』(アルファベータブックス)、近著として『今だから! 植木等』(同2022年1月刊)がある。

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