三船との共演作なら、何といっても『酔いどれ天使』(48)である。昨今、笠置シヅ子の「ジャングルブギー」ばかりが取り沙汰される本作において、最も印象に残った俳優はと問われれば、筆者は真っ先に久我美子の名前を挙げる。
この黒澤映画で久我は、稲垣が指摘した「丸い顔、太い眉、八重歯と特徴のある声」を武器に、結核から立ち直る健気な少女を好演する。しんみりとしたラストシーンに希望を感じるのは、久我の存在があってこそ。まさに〝天使〟のごとき、はちきれんばかりの可憐さに、当時の観客は皆、救われる思いで劇場をあとにしたに違いない。
谷口千吉の『ジャコ萬と鉄』(49)でも〝天使〟的役柄をこなした久我。黒澤が松竹で撮った『白痴』(51)では、やはり元侯爵を感じさせる役柄(自身でも「やっと私の役柄にめぐり会えた」と振り返る)を演じ、大いにその存在感を示した(※2)。
久我の東宝での代表作といえば、やはり『また逢う日まで』(50)にとどめを刺すだろう。
キネマ旬報ベストテンで第1位を得た、今井正によるこの〝悲恋もの〟は、今なお岡田英次との「ガラス越しのキスシーン」ばかりが語り継がれるが、実は直に接吻しているシーンも(それも三度も四度も!)ある。
どちらにしても、この時代に見た方のショックは相当なものだったはずで、これで久我美子は永遠の存在となる。
戦時真っ只中の若者の実らぬ恋を描き、声高なメッセージはなくとも、淡々と二人のささやかな夢を描くことで、見事な反戦映画となり得た本作。ここで久我が岡田に見せた〝おどけ顔〟も、ラストの哀切さを一層募らせる効果を生んでいる。久我自身、未熟さを認める発言を残しているが、今の目で見てもなかなかの名演である。
51年から久我は大映に所属。木下惠介に気に入られた『女の園』(54/松竹※3)以降の、「にんじんくらぶ」時代の活動については本稿では触れないが、その後も久我はゆったりとしたペースで、気品さを失わずに女優業を継続。のちに『ゴジラVSビオランテ』(89)に官房長官役で出演した折には、亡夫・平田昭彦の遺志を継いだものとして、特撮マニアを歓喜させている。
