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第23回【私を映画に連れてって!】ヴァンゲリス、サザンオールスターズ、PINK、久石譲、中山美穂、ロンドン交響楽団など、日本映画と音楽の幸福な関係

 フジパシフィック音楽出版の朝妻一郎社長(当時)には、新入社員の頃より権利のことや、アーティストの紹介、レコード会社との交渉など、あらゆる面でお世話になった。おそらく朝妻社長のお陰で20曲以上の主題歌や、イメージソング、劇伴が生まれたと思う。

 何といっても久石譲さんとの出会いは印象深い。当時、ぼくは取材を受けるたびに好きな映画は『E.T』、一緒に仕事をしたい人は「久石譲」と言っていた。大好きな『となりのトトロ』などの影響が大きかった気がするが、『E.T』のような映画を創り、久石譲さんに音楽を創ってもらうことが目標になっていたような気がする。

 1989年だと記憶しているが、久石譲さんと会えることになった。『病院へ行こう』(1990/滝田洋二郎監督)の製作中で、次回作『タスマニア物語』(1990/降旗康男監督)の企画を自分で書き、来夏の東宝(邦画系)での公開が決まっていた。シナリオが出来る前に、久石譲さんとの初の仕事が出来るよう、本人とも会い、企画の話を語った。

 製作費も高い映画だったので「ロンドンフィルでテーマ曲を創ろう!」など、普段では出来ないことを色々提案してもらった。あの『スターウォーズ』もロンドンフィルだと言われ、気持ちも大きくなった。音楽に関しては最初から最後のダビング(MIX)まで参加させてもらった。何度も久石さんのスタジオに行った。プライベートでも会うようになり、この人の才能は留まることを知らない! とか、どうしてこんなに新たなメロディが次から次へと誕生するのか驚きの体験だった。

『タスマニア物語』は今にして思えば興行収入50億円弱、但し、これはフジテレビの電波を使った宣伝などをフル活動したせいでもある。それも自分でやっていたことだが。イメージソングに、チェッカーズにも「夜明けのブレス」を作ってもらった。TVスポットも「Aパターン」から始まり「Z」まで作って、また「A“」になったりで30パターンは作っただろうか。自分でも途中からどこが違うのか分からないくらいだった。映画自体は久石譲さんの音楽で十分なのだが、どうしても「ボーカル付のメジャーな歌」が欲しかったのであろう。公開後、何度も久石譲コンサートに招待してもらい、『タスマニア物語』の演奏が始まるととても嬉しかった。映画そのものは不完全燃焼と思うところが多かった。自分の責任ではあるが。

 それから暫くして、久石譲さんのコンサートに行くと、隣の席に大林宣彦監督がいらした。終了後、楽屋に行く。久石さんがニコニコしながら大林監督とぼくの手を取って「一緒に映画やりましょう!」と。大林監督の『ふたり』(1991)や『青春デンデケデケデケ』(1992)で久石さんは音楽監督だった。『転校生』(1982)等、ぼくが大林監督の作品が好きだったことを久石さんは知っていて、この場で会わせてくれたのであろう。俄然、やる気になり、大林宣彦&久石譲のカップリングで映画をやるべし! と思った。

▲大林宣彦監督1983年公開『水の旅人 侍KIDS』のサントラ。久石譲作曲のスペクタクル感のあるスコアが、ロンドン交響楽団の演奏によりスケールの大きい楽曲となった。山﨑努と共に水の精(一寸法師)を演じた六代目尾上丑之助は、その後五代目尾上菊之助を襲名し、本年六月大歌舞伎の『菅原伝授手習鑑 寺子屋』の松王丸、『連獅子』の狂言師右近で、八代目尾上菊五郎を襲名予定。

 

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