25.10.03 update

第29回【私を映画に連れてって!】初めて合作映画に参加した三上博史、ユン・ピョウ主演『孔雀王』で体験した香港映画スタイル

 こんな初歩的なギャップの中で、香港メインの撮影はスタートする。

 アクションシーンの撮影は凄まじいほどの迫力。リハーサルで、目の前でスタントの失神者を見たときは、ちょっと不安にも。

 ほぼ24時間体制での撮影にも驚きが。3交代と言うスタイルなので8時間×3チームのはずが、例えば、俳優はそうはいかない。クランプアップで帰国した安田成美さんから一番に言われたのはこのことだ。「私たちは交代出来ないので出ずっぱり……」。郷に入れば郷に従え、との諺もあるが、この点は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 それでも一瀬隆重SFXプロデューサーはじめ、特撮ユニットは、撮影:中堀正夫(『帝都物語』)、ストーリーボード:樋口真嗣(当時はまだ22歳)、アニメーター:真賀里文子、メイキャップ:若狭新一など今、振り返れば、錚々たるメンバーに参加してもらっていた。当時は皆、若かったが。ミッキー吉野さんの音楽も素晴らしかった。

 せっかく、ユン・ピョウさんに出演してもらったのに、日本公開版は日本語吹替になってしまった。今では珍しくないが、当時の外国映画は日本語字幕が当たり前だった。その違和感は今でも覚えている。脚本で「兄弟」にしたため、どちらかの言語に合わせざるを得なかったことも理由の一つだ。それでも日本では20億円弱の興行収入をあげヒットした。

 ただ、香港公開では日本人俳優のシーンが一部カットされ、より「香港映画」になった。香港の撮影スタイルは独特で、日本との違いはある程度分かっていたつもりだったが、予想以上のギャップがあった。日本人俳優のリアクションの仕方など、香港との大きな違いを実感した。

 その後、『異邦人』(2000/スタンリー・クワン監督)など香港との合作や、香港スタッフとの仕事は5~6回はあっただろうか。ジャッジの早さ、明解さや、映画製作を進めるスピード、効率は香港の特徴でもあり学ぶべき点は多い。

▲1985年の日本公開のツイ・ハーク監督のアクション・コメディ香港映画『皇帝密使』。マイケル、スタンリー、リッキー、シンディのホイ兄妹の四男で、『Mr.Boo! ミスター・ブー』シリーズで知られるサミュエル・ホイ扮する香港一の大泥棒サムが活躍する『悪漢探偵』シリーズの第3作。『007』やテレビシリーズ「スパイ大作戦」のパロディを折り込み、「スパイ大作戦」主演のピーター・グレイブスや、『007 ムーンレイカー』で殺し屋ジョーズを演じたリチャード・キール(写真の大男)も出演している。リチャードの両隣にはエリザベス女王とロナルド・レーガンのそっくりさんの顔も。左端がサミュエル・ホイ。

 
 
 今年『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』(2024/香港)が日本で公開されて、観てとても面白かった。『孔雀王』制作時、まだ残っていた九龍城近辺で危ない? 撮影を行ったことを思い出した。当時、無法地帯と呼ばれていた。この映画の音楽は『リング』(1998)も手掛けてもらった川井憲次さん、アクション指導に谷垣健治さんが参加していて、合作ではないが、香港と日本が上手くコラボレーション出来ていると思った。

 香港映画は中国との関係もあり、全盛期時の活況にはなっていないが、『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』を観る限り、才能は健在である。

 香港で製作発表や記者会見を行った時、一番驚いたのは、会見の仕切りがほとんどなく無く? 自由気ままな感じで始まる。まだ、記者会見前なのに、壇上に並んだ俳優たちの写真を前から後ろからバシャバシャ撮りだす。会見中も記者席で携帯電話し放題。立ち上がって大きな声で喋っている人も。日本の俳優はドギマギしているが、香港では当たり前。こんな会見で明日の記事とかちゃんと出るのだろうか……。と僕も最初は不安だったが、日本の会見よりもはるかに大きな記事と写真が出た時には「これが香港スタイル」とニンマリしたものだった。

▲写真右手前に筆者、その後ろにサミュエル・ホイ、左から3番目にツイ・ハーク監督のほか、製作のカール・マッカ、脚本のレイモンド・ウォンの顔も見える。




 



かわい しんや
1981年慶應義塾大学法学部卒業後、フジテレビジョンに入社。『南極物語』で製作デスク。『チ・ン・ピ・ラ』などで製作補。1987年、『私をスキーに連れてって』でプロデューサーデビューし、ホイチョイムービー3部作をプロデュースする。1987年12月に邦画と洋画を交互に公開する劇場「シネスイッチ銀座」を設立する。『木村家の人びと』(1988)をスタートに7本の邦画の製作と『ニュー・シネマ・パラダイス』(1989)などの単館ヒット作を送り出す。また、自らの入院体験談を映画化した『病院へ行こう』(1990)『病は気から〜病院へ行こう2』(1992)を製作。岩井俊二監督の長編デビュー映画『Love Letter』(1995)から『スワロウテイル』(1996)などをプロデュースする。『リング』『らせん』(1998)などのメジャー作品から、カンヌ国際映画祭コンペティション監督賞を受賞したエドワード・ヤン監督の『ヤンヤン 夏の想い出』(2000)、短編プロジェクトの『Jam Films』(2002)シリーズをはじめ、数多くの映画を手がける。他に、ベルリン映画祭カリガリ賞・国際批評家連盟賞を受賞した『愛のむきだし』(2009)、ドキュメンタリー映画『SOUL RED 松田優作』(2009)、などがある。2002年より「函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞」の審査員。2012年「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」長編部門審査委員長、2018年より「AIYFF アジア国際青少年映画祭」(韓国・中国・日本)の審査員、芸術監督などを務めている。また、武蔵野美術大学造形構想学部映像学科で客員教授を務めている。


1 2 3

新着記事

  • 2025.12.05
    「猫」を神聖なるモチーフとし、試行錯誤で油性テンペ...

    油性テンペラ技法の画家・川井徳寛

  • 2025.12.05
    第31回【私を映画に連れてって!】野田秀樹、鴻上尚...

    文=河井真也

  • 2025.12.04
    日本男子バレーのスタープレーヤー、石川祐希選手の活...

    石川祐希選手の睡眠の秘密

  • 2025.12.04
    森美術館が凄いことになっている!現代アートの21組...

    12月3日~3月29日

  • 2025.12.02
    一見の価値あり、スイス人写真家が撮った占領下の日本...

    12月5日~3月3日

  • 2025.12.01
    【コモレバWEBマガジン・読者参加イベント】『私を...

    2026年1月23日(金)

  • 2025.12.01
    第38回【キジュを超えて】今、会いたい人─萩原 朔...

    文=萩原朔美

  • 2025.11.28
    今年の冬の思い出づくりは「箱根で過ごす」、いつもよ...

    冬の箱根のお楽しみ

  • 2025.11.28
    世界の玄関というべき「成田空港の京成」と「羽田空港...

    12月1日~3月1日

  • 2025.11.28
    第17回『東宝映画スタア☆パレード』岡田茉莉子&有...

    文=高田雅彦

映画は死なず

特集 special feature  »

<特集>今、時代劇が熱い! 第三弾 主演北大路欣也が語る「三屋清左衛門残日録」~時代劇にはまだまだ未来がある~

特集 <特集>今、時代劇が熱い! 第三弾 主演北大路欣也が...

藤沢周平原作時代劇「三屋清左衛門残目録」の章

松田聖子デビューから45年、伝説のプロデューサー若松宗雄が語る誕生秘話〈わが昭和歌謡はドーナツ盤〉特別企画

特集 松田聖子デビューから45年、伝説のプロデューサー若松...

〈わが昭和歌謡はドーナツ盤〉特別企画

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!