こんな初歩的なギャップの中で、香港メインの撮影はスタートする。
アクションシーンの撮影は凄まじいほどの迫力。リハーサルで、目の前でスタントの失神者を見たときは、ちょっと不安にも。
ほぼ24時間体制での撮影にも驚きが。3交代と言うスタイルなので8時間×3チームのはずが、例えば、俳優はそうはいかない。クランプアップで帰国した安田成美さんから一番に言われたのはこのことだ。「私たちは交代出来ないので出ずっぱり……」。郷に入れば郷に従え、との諺もあるが、この点は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
それでも一瀬隆重SFXプロデューサーはじめ、特撮ユニットは、撮影:中堀正夫(『帝都物語』)、ストーリーボード:樋口真嗣(当時はまだ22歳)、アニメーター:真賀里文子、メイキャップ:若狭新一など今、振り返れば、錚々たるメンバーに参加してもらっていた。当時は皆、若かったが。ミッキー吉野さんの音楽も素晴らしかった。
せっかく、ユン・ピョウさんに出演してもらったのに、日本公開版は日本語吹替になってしまった。今では珍しくないが、当時の外国映画は日本語字幕が当たり前だった。その違和感は今でも覚えている。脚本で「兄弟」にしたため、どちらかの言語に合わせざるを得なかったことも理由の一つだ。それでも日本では20億円弱の興行収入をあげヒットした。
ただ、香港公開では日本人俳優のシーンが一部カットされ、より「香港映画」になった。香港の撮影スタイルは独特で、日本との違いはある程度分かっていたつもりだったが、予想以上のギャップがあった。日本人俳優のリアクションの仕方など、香港との大きな違いを実感した。
その後、『異邦人』(2000/スタンリー・クワン監督)など香港との合作や、香港スタッフとの仕事は5~6回はあっただろうか。ジャッジの早さ、明解さや、映画製作を進めるスピード、効率は香港の特徴でもあり学ぶべき点は多い。

今年『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』(2024/香港)が日本で公開されて、観てとても面白かった。『孔雀王』制作時、まだ残っていた九龍城近辺で危ない? 撮影を行ったことを思い出した。当時、無法地帯と呼ばれていた。この映画の音楽は『リング』(1998)も手掛けてもらった川井憲次さん、アクション指導に谷垣健治さんが参加していて、合作ではないが、香港と日本が上手くコラボレーション出来ていると思った。
香港映画は中国との関係もあり、全盛期時の活況にはなっていないが、『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』を観る限り、才能は健在である。
香港で製作発表や記者会見を行った時、一番驚いたのは、会見の仕切りがほとんどなく無く? 自由気ままな感じで始まる。まだ、記者会見前なのに、壇上に並んだ俳優たちの写真を前から後ろからバシャバシャ撮りだす。会見中も記者席で携帯電話し放題。立ち上がって大きな声で喋っている人も。日本の俳優はドギマギしているが、香港では当たり前。こんな会見で明日の記事とかちゃんと出るのだろうか……。と僕も最初は不安だったが、日本の会見よりもはるかに大きな記事と写真が出た時には「これが香港スタイル」とニンマリしたものだった。

かわい しんや
1981年慶應義塾大学法学部卒業後、フジテレビジョンに入社。『南極物語』で製作デスク。『チ・ン・ピ・ラ』などで製作補。1987年、『私をスキーに連れてって』でプロデューサーデビューし、ホイチョイムービー3部作をプロデュースする。1987年12月に邦画と洋画を交互に公開する劇場「シネスイッチ銀座」を設立する。『木村家の人びと』(1988)をスタートに7本の邦画の製作と『ニュー・シネマ・パラダイス』(1989)などの単館ヒット作を送り出す。また、自らの入院体験談を映画化した『病院へ行こう』(1990)『病は気から〜病院へ行こう2』(1992)を製作。岩井俊二監督の長編デビュー映画『Love Letter』(1995)から『スワロウテイル』(1996)などをプロデュースする。『リング』『らせん』(1998)などのメジャー作品から、カンヌ国際映画祭コンペティション監督賞を受賞したエドワード・ヤン監督の『ヤンヤン 夏の想い出』(2000)、短編プロジェクトの『Jam Films』(2002)シリーズをはじめ、数多くの映画を手がける。他に、ベルリン映画祭カリガリ賞・国際批評家連盟賞を受賞した『愛のむきだし』(2009)、ドキュメンタリー映画『SOUL RED 松田優作』(2009)、などがある。2002年より「函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞」の審査員。2012年「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」長編部門審査委員長、2018年より「AIYFF アジア国際青少年映画祭」(韓国・中国・日本)の審査員、芸術監督などを務めている。また、武蔵野美術大学造形構想学部映像学科で客員教授を務めている。












