25.11.06 update

第30回【私を映画に連れてって!】韓国から何十万人もの人が訪れた『Love Letter』の小樽をはじめ、映画とロケ地のすてきなトリビア

 ぼくの関わった映画で元祖「ロケ地巡礼」に当たるのは『私をスキーに連れてって』(1987/馬場康夫監督)だろうか。1~2月の撮影を予定していたのだが2月中旬になっても雪が降らない。元々、企画のストーリーとしてはユーミンが今でもコンサートをやっている苗場だ。志賀高原、万座など色々候補はあったはずだが、どこも雪不足、というか無い。結局、クランインできるか3月まですったもんだした挙句、辛うじて奥志賀の焼額山のプリンスホテルをベースに4月に入り、俳優も参加して、正式クランクイン。プリンスホテル、プリンスグループには本当にお世話になったが、その後のスキーブームで焼額山は空前のスキー客が訪れることになった。というより、全国のスキー場が原田知世さんの来ていた白いスキーウエア族で大いに盛り上がった。

▲馬場康夫監督、一色伸幸脚本の1987年公開『私をスキーに連れてって』。主演は原田知世、共演の三上博史はスキーができる俳優ということで抜擢され、本作を機にスター俳優へと駆け上がった。ヒロイン原田知世のニット帽にゴーグルスタイルは女性たちに大流行し、原田は日本アカデミー賞話題賞を受賞している。奥志賀高原スキー場、焼額山スキー場のゲレンデをはじめ、志賀高原プリンスホテル、万座プリンスホテルなどロケ地も話題になった映画。大晦日に三上博史たちが楽しむシーンは万座温泉ロッジ「ハウスユキ」で撮影された。当時、全日本スキー連盟会長だった堤義明氏から日本のスキー指導の第一人者で、万座スキー学校校長の黒岩達介氏への電話依頼で急遽撮影が決まり、通常営業をする中、3日間徹夜で撮影が実施されたという。スキーを八の字にした前走者の足の間に、同じように八の字にした後走者がスキーを入れて列車の一両編成のように連なった状態で滑る「トレイン走行」は、焼額山スキー場でのシーンであった影響から、焼額山スキー場でトレイン走行をするスキーヤーたちが増えた。写真は焼額山プリンスホテルの前での原田知世ら。


 数年前に、(伊豆)大島に行った時の記憶は今でも新鮮だ。昔『七人のおたく』(1992/山田大樹監督)のロケで大島に10数人の俳優と撮影に行った。30年以上前の話で、ぼくはどこで撮影をしたか、忘れてしまっていた。たまたま、道路沿いで車を止めていた時の事。

 ぼくが『七人のおたく』はどこで撮影したんだろうな……と呟いたのか……知らないオジサンが「ちょっとついて来な!」という感じで「オレは知ってるぜ!」の形相。そこからが凄い。「ちょっと向こうの方見て! あの小屋みたいなところがあるでしょ。中尾彬さんが、こうやって座っていて、途中のあそこ! から山口智子さんが現れる!」この人は、もしかしたらスタッフだったのかと思わせてくれるような詳しい解説付き。プロデューサーだった自分の記憶は全くないのに比べて、なんと鮮やかに助監督のような説明に感服!「だって、大島の人間はみんな知ってるよ! ウッチャンナンチャンやら江口洋介やら生で見られるめったにない機会だったからね」

 映画のロケのもう一つの役割みたいなもの。ロケ場所の人たちの想い出としてしっかり覚えていてもらえる。そして「地方創生」の言葉が飛び交って久しいが、映画を観てくれて、話題にしてもらって、撮影場所を訪れる人が増えるのはとても素敵なことだ。

▲山田大樹監督、一色伸幸原作・脚本の1992年公開『七人のおたく』。ミリタリーおたくの南原清隆、格闘技・ヒーローおたくの内村光良、Macおたくの江口洋介、レジャーおたくの山口智子、フィギュアおたくの益岡徹、アイドルおたくの武田真治、無線おたくの浅野麻衣子というメンバー。最終目的地となる「井加江島」のロケ地は伊豆大島。中尾彬は井加江島を支配している高松屋の主人を演じた。




 



かわい しんや
1981年慶應義塾大学法学部卒業後、フジテレビジョンに入社。『南極物語』で製作デスク。『チ・ン・ピ・ラ』などで製作補。1987年、『私をスキーに連れてって』でプロデューサーデビューし、ホイチョイムービー3部作をプロデュースする。1987年12月に邦画と洋画を交互に公開する劇場「シネスイッチ銀座」を設立する。『木村家の人びと』(1988)をスタートに7本の邦画の製作と『ニュー・シネマ・パラダイス』(1989)などの単館ヒット作を送り出す。また、自らの入院体験談を映画化した『病院へ行こう』(1990)『病は気から〜病院へ行こう2』(1992)を製作。岩井俊二監督の長編デビュー映画『Love Letter』(1995)から『スワロウテイル』(1996)などをプロデュースする。『リング』『らせん』(1998)などのメジャー作品から、カンヌ国際映画祭コンペティション監督賞を受賞したエドワード・ヤン監督の『ヤンヤン 夏の想い出』(2000)、短編プロジェクトの『Jam Films』(2002)シリーズをはじめ、数多くの映画を手がける。他に、ベルリン映画祭カリガリ賞・国際批評家連盟賞を受賞した『愛のむきだし』(2009)、ドキュメンタリー映画『SOUL RED 松田優作』(2009)、などがある。2002年より「函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞」の審査員。2012年「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」長編部門審査委員長、2018年より「AIYFF アジア国際青少年映画祭」(韓国・中国・日本)の審査員、芸術監督などを務めている。また、武蔵野美術大学造形構想学部映像学科で客員教授を務めている。


1 2 3

新着記事

  • 2025.12.05
    「猫」を神聖なるモチーフとし、試行錯誤で油性テンペ...

    油性テンペラ技法の画家・川井徳寛

  • 2025.12.05
    第31回【私を映画に連れてって!】野田秀樹、鴻上尚...

    文=河井真也

  • 2025.12.04
    日本男子バレーのスタープレーヤー、石川祐希選手の活...

    石川祐希選手の睡眠の秘密

  • 2025.12.04
    森美術館が凄いことになっている!現代アートの21組...

    12月3日~3月29日

  • 2025.12.02
    一見の価値あり、スイス人写真家が撮った占領下の日本...

    12月5日~3月3日

  • 2025.12.01
    【コモレバWEBマガジン・読者参加イベント】『私を...

    2026年1月23日(金)

  • 2025.12.01
    第38回【キジュを超えて】今、会いたい人─萩原 朔...

    文=萩原朔美

  • 2025.11.28
    今年の冬の思い出づくりは「箱根で過ごす」、いつもよ...

    冬の箱根のお楽しみ

  • 2025.11.28
    世界の玄関というべき「成田空港の京成」と「羽田空港...

    12月1日~3月1日

  • 2025.11.28
    第17回『東宝映画スタア☆パレード』岡田茉莉子&有...

    文=高田雅彦

映画は死なず

特集 special feature  »

<特集>今、時代劇が熱い! 第三弾 主演北大路欣也が語る「三屋清左衛門残日録」~時代劇にはまだまだ未来がある~

特集 <特集>今、時代劇が熱い! 第三弾 主演北大路欣也が...

藤沢周平原作時代劇「三屋清左衛門残目録」の章

松田聖子デビューから45年、伝説のプロデューサー若松宗雄が語る誕生秘話〈わが昭和歌謡はドーナツ盤〉特別企画

特集 松田聖子デビューから45年、伝説のプロデューサー若松...

〈わが昭和歌謡はドーナツ盤〉特別企画

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!