『バトル・ロワイアル』の宣伝キャッチコピーは〝本日の授業、殺し合い〟というものだった。これがかなりのインパクトで、しかもR15指定映画だったために、すごい話題になった。東映映画宣伝部の若手部員による成果である。〝本日の授業は殺し合い〟なんてコピーはなかなか作れるものではない。そのコピーを作った有能な宣伝マンは、その後すぐに電通に引き抜かれた。私が7月1日付で本社に異動になったときには、このコピーはすでにできあがっており、宣伝プロデユーサーが宣伝プランを組んでいた。当初の公開予定は10月だった。正月映画ではないので、それほど力を入れた作品というわけではなかった。赴任して『バトル・ロワイアル』の特報を見せられた。つまり、予告編である。観た瞬間、中学生同士の殺し合いの映像的インパクトに圧倒された。ブロックブッキングというシステムの中、契約館に提供する正月映画がないというのは、とんでもないことだった。そこで、岡田裕介に『バトル・ロワイアル』を正月映画にしましょうと進言した。営業部長からは、こんな映画を正月映画に持ってくるなんてとんでもないとギャアギャア言われたが、『バトル・ロワイアル』は12月16日に正月映画として公開された。結果として興行収入30億円を超える大ヒットとなり、ブルーリボン賞作品賞も受賞した。正直、映画って金になるんだなと実感した。
この映画の宣伝には裏話がある。10月に読売新聞で、〝本日の授業、殺し合い〟というカラー10段の正月映画『バトル・ロワイアル』の全面広告を出した。それを見た、中学生の子を持つ母親から、「こんな映画を作らせるのか」という抗議が、後に暗殺された民主党の衆議院議員石井紘基氏のもとに寄せられた。石井氏はその抗議を受けて、中学生たちが殺し合いをするような映画を作らせることを衆議院の文教委員会で認めているのを大臣は知っているのかと政府の見解を求める質疑を行なった。そこで、東映本社の会議室で、「朝まで生テレビ」ではないが、夜を徹して、マスコミ、深作監督と、映画の規制、上映中止を求める石井氏との間で、「本当に子供には観させてはいけない映画なのか」という大論争が展開された。テレビ、週刊誌などのメディアでも大々的に取り上げられ、大きな話題となり、結果的にこの騒動が、映画宣伝に多大な貢献をするという皮肉な結果となった。石井氏が、応援してくれたようなものだった。
また、いち早く流行を感知する学生への訴求が効果的な学校の通学路に設置されていた看板広告〝スクールボード〟に、『バトル・ロワイアル』の広告展開もした。スクールボードの一面にポスターが掲出されると、校長先生から「なんとかなりませんか、やめてください」といった電話がかかってくる。そんな話題も映画宣伝に一役買うことになった。宣伝意図とは別に、映画そのものが勝手に動き出したのだ。