22.10.17 update

第9回 映画『ホタル』の舞台挨拶で、「震えるんだよね」と言った高倉健

 本社に異動になったものの、2008年に秘書部長になるまでは、本社の映画宣伝部長と、北海道支社長を兼任していた。月1回は北海道に出向いていた。支社長というのは、前線部隊の部隊長のようなもので、本社の宣伝部長、営業本部長というのは、基本的に参謀本部の人間である。映画の製作、企画なり宣伝プランを立案するのが参謀本部であり、その本社の指令に基づいて、支社の部隊長は歩兵部隊として、それぞれのエリアで陣地を拡げていくのである。支社長というのはブランチマネージャーとして映画館の館主たちと、配給交渉をするのが仕事であった。それに、本社からあてがわれる宣伝費をうまく分配して北海道エリアの中でいかに効果的に使用するかということを考えるのが務めと認識していた。

 映画プロデューサーが企画した映画は、まず社長、両撮影所長、映画営業部長、映画宣伝部長で構成される企画審議会にかけられ審議される。宣伝部では、映画化が決まった作品をいかなるキャンペーンを打ち、宣伝費をいかに活用するかを検討する。たとえば、テレビ中心でいくのか、新聞中心でいくのか、というようなことをプランニングするのである。何もかも一人でやっていた北海道支社時代とは違って、私が、映画宣伝部長として積極的にプランを立てることはなかった。本社の宣伝プロデューサーと、支社の宣伝担当者との決定的な違いは、本社の宣伝部は、製作委員会、製作プロデユーサーと相談しながらゼロからプランや作戦を組み立てていくという仕事。支社の宣伝というのは、本社のプランに基づいて、予算を効果的に施行するという仕事であり、同じ宣伝でもまったく違う仕事だと言える。宣伝の仕事でも、こんなに違うのかということを、本社の映画宣伝部長に就任して実感することになった。

 キャンペーンのためには、俳優たちにも頭を下げてプロモーションとしてテレビなどへの出演もお願いしなければならない。そもそも、俳優にとっては、映画を撮り終えた時点で、仕事は終わりである。今の時代は、主演俳優たちも、映画の公開まで座長として、キャンペーンにつきあってくれるのが当たり前のようになってきたが、それは角川映画の時代あたりからではなかったかと記憶する。それ以前にも、大作映画などで、初日の舞台挨拶に主演俳優が登壇するといったことはあったが、入社当時には、北海道支社までキャンペーンに来る俳優たちもいなかったので、鶴田浩二、高倉健、菅原文太にしろ、同じ東映にいながら、東映俳優たちの顔を見たことは一度もなかった。

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映画は死なず

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