22.10.17 update

第9回 映画『ホタル』の舞台挨拶で、「震えるんだよね」と言った高倉健

 『バトル・ロワイアル』の宣伝キャッチコピーは〝本日の授業、殺し合い〟というものだった。これがかなりのインパクトで、しかもR15指定映画だったために、すごい話題になった。東映映画宣伝部の若手部員による成果である。〝本日の授業は殺し合い〟なんてコピーはなかなか作れるものではない。そのコピーを作った有能な宣伝マンは、その後すぐに電通に引き抜かれた。私が7月1日付で本社に異動になったときには、このコピーはすでにできあがっており、宣伝プロデユーサーが宣伝プランを組んでいた。当初の公開予定は10月だった。正月映画ではないので、それほど力を入れた作品というわけではなかった。赴任して『バトル・ロワイアル』の特報を見せられた。つまり、予告編である。観た瞬間、中学生同士の殺し合いの映像的インパクトに圧倒された。ブロックブッキングというシステムの中、契約館に提供する正月映画がないというのは、とんでもないことだった。そこで、岡田裕介に『バトル・ロワイアル』を正月映画にしましょうと進言した。営業部長からは、こんな映画を正月映画に持ってくるなんてとんでもないとギャアギャア言われたが、『バトル・ロワイアル』は12月16日に正月映画として公開された。結果として興行収入30億円を超える大ヒットとなり、ブルーリボン賞作品賞も受賞した。正直、映画って金になるんだなと実感した。

2000年に公開された深作欣二監督『バトル・ロワイアル』。近未来の日本を舞台に、法の下で殺し合いを強いられる中学生たちのサバイバルを描いた作品で、目を覆うような残虐なシーンも話題となり、中学生による鑑賞を制限するため、R-15指定となった。不条理な状況に置かれた中学生たちの極限の感情を、藤原竜也、安藤政信、高岡蒼佑、塚本高史、前田亜季、栗山千明、柴咲コウらが豊かな感性で演じ切り、この作品でステップ・アップし俳優としての成長を遂げている。現在も第一線で活躍している彼らの22年前の姿を画面の中で、今一度観てみたい。藤原竜也はブルーリボン賞新人賞を受賞している。蜷川幸雄に見いだされた舞台『身毒丸』で才能を開花させた藤原が、映像作品でも魅力を放った映画としても記憶される。柴咲コウも、本作と『GO』で、日刊スポーツ映画大賞新人賞を受賞している。ちなみに、安藤政信は、当時すでに25歳だった。また、狂気をはらんだ冷徹な教師を演じたビートたけしも、大いに話題となった。『仁義なき戦い』シリーズをはじめ、暴力衝動を通して、時代のリアルな青春群像を描いてきた深作監督による、この作品もまた青春群像映画と言えるかもしれない。ブルーリボン賞作品賞にも輝いた。©2000「バトル・ロワイアル」製作委員会

 この映画の宣伝には裏話がある。10月に読売新聞で、〝本日の授業、殺し合い〟というカラー10段の正月映画『バトル・ロワイアル』の全面広告を出した。それを見た、中学生の子を持つ母親から、「こんな映画を作らせるのか」という抗議が、後に暗殺された民主党の衆議院議員石井紘基氏のもとに寄せられた。石井氏はその抗議を受けて、中学生たちが殺し合いをするような映画を作らせることを衆議院の文教委員会で認めているのを大臣は知っているのかと政府の見解を求める質疑を行なった。そこで、東映本社の会議室で、「朝まで生テレビ」ではないが、夜を徹して、マスコミ、深作監督と、映画の規制、上映中止を求める石井氏との間で、「本当に子供には観させてはいけない映画なのか」という大論争が展開された。テレビ、週刊誌などのメディアでも大々的に取り上げられ、大きな話題となり、結果的にこの騒動が、映画宣伝に多大な貢献をするという皮肉な結果となった。石井氏が、応援してくれたようなものだった。
 また、いち早く流行を感知する学生への訴求が効果的な学校の通学路に設置されていた看板広告〝スクールボード〟に、『バトル・ロワイアル』の広告展開もした。スクールボードの一面にポスターが掲出されると、校長先生から「なんとかなりませんか、やめてください」といった電話がかかってくる。そんな話題も映画宣伝に一役買うことになった。宣伝意図とは別に、映画そのものが勝手に動き出したのだ。

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映画は死なず

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