22.03.29 update

第5回 キャサリンの外鼻孔

人生百年時代――とはいえ、老いさらばえて100歳を迎えたくはない。
健康で生気みなぎるような日々を過ごせてこそ、ナイス・エイジングだ!
西洋医学だけでなく東洋医学、ホメオパシー、代替医療まで、
人間を丸ごととらえるホリスティック医学でガン治療を諦めない医師、
帯津良一の養生訓は、「こころの深奥に〝ときめき〟あれ」と説く。


帯津良一・86歳のときめき健康法
文=帯津良一

 調べ物のために昔の映画雑誌の頁(ページ)をめくっていたら、

「1930年代の名花(めいか)たち」

 という頁に行き当たったのである。

 その瞬間、若き日のキャサリン・ヘプバーンの顔が迫ってきた。すごい色気である。ほかにマーナ・ロイとかラナ・ターナーなど数人の顔も並んでいたが、こちらはまったく迫力がない。その他大勢である。

 キャサリン・ヘプバーンの色気の根元は何処に? それはすぐにわかった。鼻の孔(あな)、すなわち解剖学用語でいう外鼻孔(がいびこう)にあったのだ。解剖学用語では鼻のことを外鼻という。そして外鼻は鼻根(びこん)、鼻背(びはい)、鼻尖(びせん)、鼻翼(びよく)、外鼻孔から成り、鼻尖、鼻翼、外鼻孔によって鼻の孔ができ上るのである。

つまり、鼻の孔といえば外鼻孔のことなのであるが、鼻翼と鼻尖が大きく影響を与えているのである。

 これまでも多くの女優さんの外鼻孔に色気を感じて来た。まずはジェーン・ラッセル。代表作といえば、

『紳士は金髪がお好き』(53年、アメリカ)

 か。監督はハワード・ホークス。主演はマリリン・モンロー。ジェーン・ラッセル、チャールズ・コバーン。

 世間の注目は圧倒的にマリリン・モンローだったが、私の関心はジェーン・ラッセルだった。あの抓(つま)まれたような鼻に色気を感じたのだ。近所の額縁店の店頭にあった彼女の額入りのブロマイドを買って来て、わが勉強机の上に飾ったのだから。

「病(やまい)膏肓(こうこう)に入る」

 とはこのことだ。家族の者は鼻の孔の色気なんて思いも及ばないから、ただ、にこにこしながら眺めている。私はほくそ笑みながら一人で悦に入っていたものである。

 次なるは、どうしてもソフィア・ローレンにご登場願わなくてはならない。初対面の映画が何であったか忘れてしまったが、彼女の野性的な色気には圧倒されたものである。彼女の色気の代表作といえば、

『河の女』(55年、イタリア)

 だろう。監督はマリオ・ソルダーティ。主演はソフィア・ローレン、ジェラール・ウーリー、リック・バッタリア。主題歌のマンボ・バカンもよかった。外鼻孔は端正な長方形だ。

 それにしても、色気の根元は外鼻孔であって、どうしても目や口ではないのだろう。目や口も色気と決して無縁ではないが、外鼻孔のそれに及ばないのは目と口は二次元なのに外鼻孔は三次元だからではないのだろうか。要するに場(ば)のエネルギーに違いないのだ。

 目は口ほどに物を言うというが鼻ほどではないのだ。コロナ禍のマスクが世の中から女性の色気を奪い去ってしまったことが自然免疫の低下をもたらしたような気がしてならない。元気を出すために、『旅情』のDVDを観てキャサリンに会ってみることにした。

 

おびつ りょういち
1936年埼玉県川越市生まれ。東京大学医学部卒業、医学博士。東京大学医学部第三外科に入局し、その後、都立駒込病院外科医長などを経て、1982年、埼玉県川越市に帯津三敬病院を設立。そして2004年には、池袋に統合医学の拠点、帯津三敬塾クリニックを開設現在に至る。日本ホリスティック医学協会名誉会長、日本ホメオパシー医学会理事長著書も「代替療法はなぜ効くのか?」「健康問答」「ホリスティック養生訓」など多数あり。その数は100冊を超える。現在も全国で講演活動を行っている。講演スケジュールなどは、https://www.obitsusankei.or.jp/をご覧ください。

映画は死なず

新着記事

  • 2024.10.03
    令和の今もコーラスで親しまれるH2Oが昭和58年リ...

    H2O「想い出がいっぱい」

  • 2024.10.02
    松田優作唯一のドキュメンタリー映画『SOUL RE...

    文=河井真也

  • 2024.10.02
    「世界の持続可能な観光地TOP 100選」第1位─...

    佐藤正毅「箱根DMO」戦略推進部マネージャー

  • 2024.10.01
    永青文庫所蔵の織田信長の手紙が一挙公開される!「信...

    10月5日( 土)~12月1日( 日)

  • 2024.09.30
    お一人様用

    【スマホ散歩】文:写真 萩原朔美

  • 2024.09.30
    第3回 森繁久彌(前編)☆ 権威や体制に抗った喜劇...

    文=高田雅彦

  • 2024.09.27
    【帯津良一・88歳のときめき健康法】女優・浜辺美波...

    文=帯津良一

  • 2024.09.26
    西城秀樹は昭和50年「白い教会」を歌ってバカヤロー...

    美樹克彦「花はおそかった」

  • 2024.09.24
    老いは戯れるもの─萩原 朔美の日々   

    第23回 キジュからの現場報告

  • 2024.09.24
    本国パキスタンで一旦は上映禁止となった話題作、『ジ...

    応募〆切:10月15日(火)

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!