22.04.28 update

第14回 ジュリー&ショーケン 成城に現る!


成城シネマトリビア─語り継ぐ映画村─

文:高田 雅彦


1932年、東宝の前身である P.C.L.(写真化学研究所)が
成城に撮影用の大ステージを建設し、東宝撮影所、砧撮影所などと呼ばれた。
以来、成城の地には映画監督や、スター俳優たちが居を構えるようになり、
昭和の成城の街はさしずめ日本のビバリーヒルズといった様相を呈していた。
街を歩けば、三船敏郎がゴムぞうりで散歩していたり、
自転車に乗った司葉子に遭遇するのも日常のスケッチだった。
成城に住んだキラ星のごとき映画人たちのとっておきのエピソード、
成城のあの場所、この場所で撮影された映画の数々をご紹介しながら
あの輝きにあふれた昭和の銀幕散歩へと出かけるとしましょ
う。

 

 現在、六十歳以上になっている方なら誰もが心奪われたに違いないのが、グループサウンズと呼ばれたバンド群。1960年代後半に人気全盛を誇った通称‶GS〟が、日本のロック(今で言うJポップ)の礎を築いたことは言うまでもない。そして、これらの中で最も大きな(特に女性)人気を集めたのが、ザ・タイガースとザ・テンプターズの両バンドであった。

 日本の映画界においては、観客が減少傾向を見せる前から、歌謡界やテレビの世界で人気者となった歌手を撮影所に招き、主役や助演に据えるのは当たり前。これにより、ひばり、チエミ、いづみの‶三人娘〟はもちろん、舟木一夫、橋幸夫、西郷輝彦の‶御三家〟、フランキー堺、植木等、加山雄三といった、本来は音楽家であるタレントたちが続々と〈映画スター〉の座を獲得する。1965年(昭和40)から69年(昭和44)までの僅かな時期ではあったが、ザ・スパイダースをはじめとするGSの面々も映画のフィールドに引き込まれ、観客動員の一翼を担わされていた。

 タイガースのヴォーカリスト・沢田研二は、現在の姿からは想像もつかない貴公子然とした風貌から、‶ジュリー〟の愛称で親しまれ、彼を主軸に据えた映画が何本か作られている。今回は、GS‶二大アイドル〟のジュリーとショーケン(テンプターズの萩原健一)が成城の街に姿を現した映画をご紹介してみたい。

 タイガース人気にあやかった映画の第一作目は、ビートルズ映画(特に『ハード・デイズ・ナイト』)に誘発されたと思しき『ザ・タイガース 世界はボクらを待っている』(68年/和田嘉訓監督)(註1)。所属事務所の渡辺プロが東宝と組んで製作したファンタジーSFだが、『怪獣大戦争』(65年)に登場したX星人の円盤の使い回しや、お金がかかっていそうもないセットの様子を見れば、日本映画の凋落ぶりは明らか。それでも、ジュリーやタイガースの面々が出てくるだけで、映画館は興奮に包まれたものだった。

 本作は、地球に不時着した‶アンドロメダ星の王女〟シルビィ(久美かおり)とジュリーによるロマンス物語の合間に、タイガースの歌を聴かせるという、のちのPVのようなもの。内容的にも特筆すべきものはなく、相手役を演じた久美かおり(同じく渡辺プロ所属)がジュリー・ファンから睨まれたことだけは確かだ。

 京都から上京したタイガースが、実際に合宿生活を送ったのは千歳烏山の一軒家。ジュリーがデビュー曲「僕のマリー」を自ら買い求めたのも、千歳烏山駅前にあったレコード店だったという。しかしながら、本作における彼らの合宿所は、成城学園前駅南口から徒歩数分のところにあるマンション「Sコーポ」(映画では「静風マンション」)の一室に設定。当マンション斜め前の家(註2)では、熱狂的なジュリー・ファンの高校生・小橋玲子(註3)が父親の小沢昭一と暮らしている。

 刑事を職業とする小沢は、日劇でファンの負傷事件を起こしたタイガースに張り付くよう命じられているのだが、当の本人たちがいるとは知らずに、騒音を発する向いのマンションへ抗議に出向く。父を止めようとする娘の小橋は、タイガースのメンバーがリハーサルをしているのを見て、感激のあまり失神(!)。あくる朝には、裏口から走り出て送迎バス(運転手はなべおさみ)に乗り込むメンバーの姿も目撃する。このとき、彼女がジュリーと見間違える住人は石橋エータロー(相変わらずのおネエ言葉が可笑しい)。このギャグにクレージーキャッツ好きの筆者は大いに笑わされたが、女性客に受けた気配はまったくなかった。

 なお、小橋が夢で見る「落葉の物語」の歌唱シーンが成城でなく、田園調布のいちょう並木でロケされているのは、こちらのほうが坂道で高低差があり、絵になったからであろう(註4)。

『世界はボクらを待っている』で成城ロケが行われたのは、ここ! 「静風マンション」に化けた「Sコーポ」は、54年後の今も現役である。(筆者撮影)

 本作はある意味、人気絶頂のメンバー(中でも‶星のプリンス〟と呼ぶに相応しいジュリー)の姿を見、歌を聴くためだけの映画である。いわばアイドル映画であり、のちに沢田研二が『太陽を盗んだ男』(79年/長谷川和彦監督)や『ときめきに死す』(84年/森田芳光監督)、『リボルバー』(88年/藤田敏八監督)といった硬派作品=シビアな役柄ばかり選ぶようになったのは、本作をはじめとするタイガース映画に嫌気が差していたからに違いない。

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映画は死なず

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