23.02.20 update

第10回 世代交代なき社長交代劇

 岡田裕介から、東映5代目社長をやれと言われたとき、とんでもないと思った。岡田裕介と私は同じ年齢で、世代交代もできないわけである。岡田茂が、後継者は10歳下の者にしなければだめだとよく言っていた。私がまだ北海道支社長だった頃、支社長の後継者には10歳若い人物を選べと、岡田茂から言われていたのだ。同じ年代だとライバルになって必ず争いが起こり、権力争いになる。20歳下だとまだ、人材として育っていない。10歳下くらいがちょうどいいのだ、というわけである。だから、どうして同じ年齢の私が、という思いしかなかった。〝世代交代なき社長交代〟と思わず口をついて出るほど、私にとって青天の霹靂だった。ちなみに、手塚治東映6代目社長(2023年2月11日逝去※)は、私の11歳年下である。岡田裕介としては、自分はもう12年務めたから代替わりしなければいけないという、それだけの考えだったように思える。

 だが、岡田裕介からは、想像はしていただろう? と言われた。この人は何を言っているのだと思ったほど、まったく考えられなかった社長就任だった。どうやら岡田裕介は、私の社長就任に関して、社内の人間はじめ、業界やマスコミ関係の人たち訊きまわっていたらしいのだ。知らなかったのは私だけだった。周囲の声が私の耳にも届いていたと思っていたようだ。

 今にして思えば、総務に異動になったのは、会社全体を俯瞰で見渡す機会を与えられていたのかもしれない。東映という会社を俯瞰で見るために、まずは総務を統轄しなければならないと、岡田裕介は考えていたのかもしれない。秘書部長というのもほとんど社長の相談役で、社長に直接言えない社内外の相談事は私を通して社長に進言されていた。岡田裕介の社長秘書という役回りだった。そんな役目は、私が最初だったと思う。スケジュールを管理することは一切しなくていい、おまえにできるわけはないと言われていて、いわゆる政策秘書的な任務だった。私は、岡田裕介の思惑も知らないままに、当時は、秘書部長、総務部長と、その務めを果たしていただけだった。

 私が社長に就任した2014年、東映は絶好調の時代だった。それ以前からシリーズ化されていたテレビドラマの「相棒」(連続ドラマとしては2002年~)、「科捜研の女」(1999年~)などの作品がすべて当たっていた。圧倒的に強かった。岡田裕介は、映画製作をやめたら東映は超一流会社だな、と自虐的に言っていた。映画で当たったのは特撮映画『仮面ライダー』シリーズ。14年だけでも『平成ライダー対昭和ライダー 仮面ライダー大戦feat.スーパー戦隊』『劇場版 仮面ライダー鎧武(ガイム)サッカー大決戦! 黄金の果実争奪杯!』『仮面ライダー×仮面ライダードライブ&鎧武 MOVIE大戦フルスロットル』の3作が公開された。当時の東映の劇場映画では、『仮面ライダー』だけで食っていたと言えるほど当たった。年に1作品くらい大当たりした実写映画もあった。2005年の『男たちの大和/YAMATO』は興行収入50億超で、その年の邦画興行収入のトップだった。

▲平成仮面ライダー15作品記念として2014年3月29日に公開された『平成ライダー対昭和ライダー 仮面ライダー大戦feat.スーパー戦隊』。さらに、特撮テレビドラマの雄「仮面ライダーシリーズ」と「スーパー戦隊シリーズ」のクロスオーバー作品としても、この映画は語られる。キャッチコピーは〝遂に正義が衝突する――〟だった。平成ライダーからは、当時の最新版「仮面ライダー鎧武/ガイム」を中心に、「仮面ライダー555」「仮面ライダーディケイド」「仮面ライダーW」「仮面ライダーウィザード」ら、昭和ライダーからは「仮面ライダー」「仮面ライダーX」「仮面ライダーZX」ら、それぞれ15人、総勢30人の正義が激突する掟破りのライダー対決というわけである。仮面ライダー15人ずつの「平成対昭和」の構図は、この作品でしか成立しない。本作では、平成ライダーと昭和ライダーの勝敗が明確に描かれる。平成、昭和の2パターンの勝利の結末が用意され、ファンの投票によって公開初日の上映が決定した。投票数は277万3322票で、結果は、平成ライダー138万7041票、昭和ライダー138万6281票だった。昭和ライダー勝利バージョンは公開されることなく、Blu-ray/DVD(セル版のみ)に収録されている。公開初日2日間で22万2265人の観客動員を記録した。現在も受け継がれているヒーローの原点である仮面ライダー1号の藤岡弘、はじめ、井上正大、半田健人、桐山蓮、佐野岳、高杉真宙らが出演。スーパー戦隊シリーズからは、「獣電戦隊キョウリュウジャー」のキョウリュウレッドと「列車戦隊トッキュウジャー」の5人が、クライマックスの戦闘にゲスト出演し、現在人気沸騰中の横浜流星、竜星涼、志尊淳も顔を見せている。この年には計3本の『仮面ライダー』が映画化された。そして、待望の『シン・仮面ライダー』が、2023年3月17日18時より全国最速公開、3月18日(土)全国公開される。
©2014「仮面ライダー」製作委員会▲

1 2 3 4

映画は死なず

新着記事

  • 2024.11.21
    「星影のワルツ」「北国の春」という2つの大ヒット曲...

    千昌夫「夕焼け雲」

  • 2024.11.20
    能登の子どもたちや被災者を、美しい音楽で励ましてく...

    被災者に勇気を与えるウイーン・フィルの活動

  • 2024.11.20
    指揮・坂本龍一✕東京フィルハーモニー交響楽団による...

    坂本龍一の伝説のコンサートを映画館で!

  • 2024.11.19
    ベートーヴェン「第九」初演から200周年の記念すべ...

    12月31日特別先行上映、1月3日から1週間限定公開!

  • 2024.11.19
    敷寝具から枕まで世界最大級の熟睡ブランド、〈マニフ...

    特別モデル【エコ サンドロ】限定3000台の予約開始!

  • 2024.11.18
    公募展の発祥地〈東京都美術館〉のテーマは「ノスタル...

    芸術活動を活性化させ、鑑賞の体験を深める

  • 2024.11.18
    女優「高峰秀子」と妻「松山秀子」─日本映画史に燦然...

    高峰秀子という生き方

  • 2024.11.15
    本格イタリアンをご家庭で、日清製粉ウェルナの「青の...

    応募〆切: 12月20日(金)

  • 2024.11.15
    京都のグンゼ博物苑で、昭和の激動時代の魅力を伝える...

    グンゼの創業の地で、「昭和レトロ展」

  • 2024.11.14
    「嵐」と並ぶシングル58曲連続トップテン入りを果た...

    THE ARFEE「メリーアン」

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!