23.02.09 update

紅白で寅さんも踊った昭和リズム歌謡の大ヒット曲 橋幸夫「あの娘と僕 スイム・スイム・スイム」

 季節外れながら、燦燦と太陽の輝く真夏のビーチを恋しく思いながら、1965年にビクターからリリースされた橋幸夫の「あの娘と僕(あのことぼく) スイム・スイム・スイム」をご紹介したい。65年のNHK紅白歌合戦で、白組のトリを務めた橋が歌ったのが「あの娘と僕~」である。橋のバックでは、坂本九やこの年ジャズのスタンダード・ナンバー「マック・ザ・ナイフ」を歌って初出場を果たしたジャニーズをはじめとする白組メンバーや、応援で駆けつけたNHKの人気番組「ジェスチャー」の白組キャプテン柳家金語楼、やはりNHKで放送中だった大人のバラエティ番組「夢であいましょう」や、人気コメディドラマ「若い季節」に出演していた、まだ『男はつらいよ』が始まる前の渥美清らが、スイムのリズムでステップを踏んでいた。

 ちなみに初出場のジャニーズには、ハワイに滞在中の石原裕次郎から、お祝い電報が届き、番組内で披露された。このエピソードは舞台『ジャニーズ伝説』でも紹介されている。当時の紅白歌合戦では、紅組、白組それぞれに、南極越冬隊員、ブラジル日本人会など国内外から多くのウィットに富んだ応援電報が寄せられて、両組の司会者により紹介されていた。この時代の紅白歌合戦は、老若男女みんなが楽しんだ一大娯楽イベントであり、年末の風物詩であった。

 この年は、いわゆる昭和歌謡〝御三家〟がトップ・アイドルとして芸能界を席巻していて、白組のトップバッターが舟木一夫の「高原のお嬢さん」、トリが橋、もちろん西郷輝彦も「星娘」で出場していた。

 橋幸夫は、60年に「潮来笠」でデビューするや一躍人気歌手となり、同年の日本レコード大賞の新人賞に輝き、紅白歌合戦にも初出場を果たした。62年の吉永小百合とのデュエット曲「いつでも夢を」、66年の「霧氷」で、2回のレコード大賞を獲得している。紅白歌合戦にも初出場から連続17回、通算19回出場し、「あの娘と僕~」で、初めて白組をトリを務めた。本年5月3日の80歳の誕生日をもって、現役歌手を引退すると宣言しており、この1月には橋の曲を歌い継ぐ〝二代目橋幸夫〟の公募を発表した。

「あの娘と僕~」は、〝スイムリズム〟の曲として、64年にリリースされたサーフィンの「恋をするなら」、ホットロッドの「ゼッケンNO.1スタートだ」、サブロックの「チェッ・チェッ・チェッ 涙にさよならを」とともに一連のリズム歌謡として、65年のレコード大賞の企画賞を受賞している。4曲とも作詞は佐伯孝夫、作曲は吉田正。今や、ダンスが義務教育の授業にも組み込まれ、難度の高いステップを子供たちでも器用にこなしているが、残念ながらシニア世代には難しすぎる。だが、この時代のリズムなら、金語楼や、寅さんこと渥美清もステップを踏めるほど、誰でもついていくことができ、その後のモンキーダンスや、ゴーゴー時代も、今のシニア世代は大いに踊りまくったものだった。松竹で橋主演により映画化もされ香山美子や桑野みゆきが共演している。

 歌詞に〝あの娘もこの娘もピチ娘(むすめ)〟というフレーズがあり、〝若いピチピチした〟という意味かと思っていたら、実は東レの新作水着「ピチ」とのタイアップによるものだとわかった。

 ちなみに「あの娘と僕~」と同時代のヒット曲には、洋楽ではローリング・ストーンズ「サティスファクション」、ビートルズ「ヘルプ!」「イエスタデイ」、ボブ・ディラン「ライク・ア・ローリング・ストーン」、ライチャス・ブラザーズ「アンチェインド・メロディ」、ボビー・ソロ「君に涙と微笑みを」、フランス・ギャル「夢見るシャンソン人形」(65年の紅白では中尾ミエが歌った)などがある。歌謡曲では、65年のレコード大賞を受賞した美空ひばり「柔」、和田弘とマヒナスターズと歌い田代美代子がレコード大賞新人賞を受賞(男性新人賞はバーブ佐竹が受賞)した「愛して愛して愛しちゃったのよ」、石原裕次郎「二人の世界」、丸山明宏(現・美輪明宏)「ヨイトマケの唄」、都はるみ「涙の連絡船」、園まり「逢いたくて逢いたくて」、ペギー葉山「学生時代」、水前寺清子「涙を抱いた渡り鳥」、日野てる子「夏の日の想い出」、倍賞千恵子「さよならはダンスの後に」などが巷に流れていた。

 橋幸夫の歌手生活引退の報に接し、昭和歌謡の時代が、いよいよ終末を迎えることが実感させられる。ドーナツ盤の時代を過ごした身には、なんとも寂しいかぎりである。

文=渋村 徹 イラスト=山﨑杉夫

アナログレコードの1分間45回転で、中央の円孔が大きいシングルレコード盤をドーナツ盤と呼んでいた。
昭和の歌謡界では、およそ3か月に1枚の頻度で、人気歌手たちは新曲をリリースしていて、新譜の発売日には、学校帰りなどに必ず近所のレコード店に立ち寄っていた。
お目当ての歌手の名前が記されたインデックスから、一枚ずつレコードをめくっていくのが好きだった。ジャケットを見るのも楽しかった。
1980年代に入り、コンパクトディスク(CD)の開発・普及により、アナログレコードは衰退するが、それでもオリジナル曲への愛着もあり、アナログレコードの愛好者は存在し続けた。
近年、レコード復活の兆しがあり、2021年にはアナログレコード専門店が新規に出店されるなど、レコード人気が再燃している気配がある。
ふと口ずさむ歌は、レコードで聴いていた昔のメロディだ。
ジャケット写真を思い出しながら、「コモレバ・コンピレーション・アルバム」の趣で、懐かしい曲の数々を毎週木曜に1曲ずつご紹介している。

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