また、堀ちえみと言えば忘れてならないのがドラマ「スチュワーデス物語」である。83年から84年にTBSで放送されたいわゆる〝大映ドラマ〟で、堀ちえみは主人公の松本千秋を演じた。スチュワーデスを目指す落ちこぼれ訓練生の千秋と、村沢教官(風間杜夫)の恋の行方は視聴者をやきもきさせ、2人の恋を成就させるための多数の嘆願書が局に寄せられるほど、反響の大きなドラマで、初回17.2%だった視聴率は回を追うごとに上昇し、最終回には26.8%の高視聴率を獲得した。「教官!」「ドジでノロマなカメ」は流行語にもなった。麻倉未稀が歌った主題歌「ホワット・ア・フィーリング」は、アメリカ映画『フラッシュダンス』の主題歌の日本語バージョンで、ドラマと共に話題になった。堀ちえみは、その後も「スタア誕生」や「花嫁衣裳は誰が着る」にも主演し、80年代の〝大映ドラマ〟を象徴する女優でもあった。
2019年2月、堀ちえみはステージ4の口腔がん(舌がん)であることを公表し、ファンのみならず、多くの人々を愕然とさせた。その後、舌の半分以上の切除と再建手術により、2020年1月に芸能活動を再開し、テレビでも笑顔を見せ、ファンを安堵させた。そして、本年2月15日に、東京・かつしかシンフォニーヒルズでデビュー40周年記念ライブ『Chiemi Hori 40thプラス1 Anniversary Live~ちえみちゃん祭り2023~』を開催した。全シングルA面21曲に、「Wa・ショイ!」と両A面扱いだった「風のサザン・カリフォルニア」を加えた全22曲をフルコーラスで歌いあげた。オープニングのデビュー曲「潮風の少女/メルシ・ボク」のイントロが流れると、客席からはすすり泣きが聞こえてきた。中盤からは観客総立ちの盛り上がりだった。1300人の観客全員が、堀ちえみの復帰を心から祝福していた。シングルのリリース順に披露したが、ラストは、アイドル時代の転換期となった最大のヒット曲「さよならの物語」だった。アンコールではアルバム曲を披露した。以前より声量が豊かになったのではないかと思えるほど、ボイストレーニングに励み、十分に準備をしてこの日に臨んだことがうかがえ、感激した。歌って、踊ってのアイドル時代の〝ちえみちゃん〟が、そこにはいた。
ワンマンライブとしては、2017年の35周年以来6年ぶりとなった本ライブ。会場には、確認できただけでも早見優、石川秀美(現・薬丸秀美)、白石まるみ(「スチュワーデス物語」でも共演)、渡辺めぐみら、同期の仲間たちの顔も見えた。互いにライバルながら、歌謡界で同じ青春の日々を過ごした同期だからこそ通じ合う絆の強さを感じさせられた。印象的だったのは、「これがゴールではなく、スタート!」という堀ちえみの力強い言葉だった。ライブは4月7日に大阪・フェニーチェSACAYでも開催される。
2月8日には、『堀ちえみ 40周年アニバーサリーCD/DVD-BOX』も発売されており、ポニーキャニオンから発表した全楽曲の配信もスタートした。シングル21枚、オリジナルアルバム10枚、ライブアルバム1枚、ベストアルバム4枚に収録された全223曲がサブスク解禁となっている。ライブの帰り道、知らず知らずに「リ・ボ・ン」を口ずさんでいた。
文=渋村 徹 イラスト:山﨑杉夫
アナログレコードの1分間45回転で、中央の円孔が大きいシングルレコード盤をドーナツ盤と呼んでいた。
昭和の歌謡界では、およそ3か月に1枚の頻度で、人気歌手たちは新曲をリリースしていて、新譜の発売日には、学校帰りなどに必ず近所のレコード店に立ち寄っていた。
お目当ての歌手の名前が記されたインデックスから、一枚ずつレコードをめくっていくのが好きだった。ジャケットを見るのも楽しかった。
1980年代に入り、コンパクトディスク(CD)の開発・普及により、アナログレコードは衰退するが、それでもオリジナル曲への愛着もあり、アナログレコードの愛好者は存在し続けた。
近年、レコード復活の兆しがあり、2021年にはアナログレコード専門店が新規に出店されるなど、レコード人気が再燃している気配がある。
ふと口ずさむ歌は、レコードで聴いていた昔のメロディだ。
ジャケット写真を思い出しながら、「コモレバ・コンピレーション・アルバム」の趣で、懐かしい曲の数々を毎週木曜に1曲ずつご紹介する。