23.04.27 update

【わが昭和歌謡はドーナツ盤】テレサ・テンの「別れの予感」を聴きながら、恋する女心を歌い続けた彼女自身の数奇な運命を思う

 アジアの歌姫と言われたテレサ・テンの突然の訃報が伝えられたのは、1995年(平成7)5月8日、ゴールデン・ウィーク明けの気怠さが残っている頃だった。タイ・チェンマイのホテルでぜんそくの発作から呼吸困難を起こして急逝、まだ42歳という若さだった。あれから随分と時が過ぎたが、カラオケで歌うのは「テレサ・テンの曲」という昭和世代の人は多いのではないだろうか。

 わたしもそんな一人であるが、なかでも歌いながら目頭が熱くなってしまうのは、1987年6月21日にリリースされた「別れの予感」である。初めて耳にしたのは眠れぬ夜の明け方のラジオからだった。突然流れてきた「別れの予感」に涙が頬を伝った。恋する可憐な女性の気持ちを歌ったこの曲は、「別れ」という言葉がまったく出てこないだけでなく、「別れ」の気配さえ感じられない詞である。もうこれ以上愛せないというほど、深く愛した女性は、離れていく男性の姿に怯え不安なっていく。そしてその不安は的中し、「別れ」という悲しい結末につながってしまうのだ。恋する女心がヒシヒシと伝わってくるこの曲は、作詞は荒木とよひさ、作曲は三木たかしのコンビだ。

 ポップス調のこの曲に、最初は「告白」というタイトルがつけられていたが、それではストレートすぎて詞の内容が推測されると判断した荒木は、「別れの予感」に変更したという。荒木の計算は見事にあたった。女性ファンの心をつかみ大ヒット、150万枚を売り上げた。

 二人のコンビによる楽曲は、それ以前に「つぐない」(84)、「愛人」(85)、「時の流れに身をまかせ」(86)とヒットしており、3年連続全日本有線放送大賞を受賞という史上初の快挙を遂げていた。85年には「愛人」で、86年と91年には「時の流れに身をまかせ」でNHKの紅白歌合戦に出場している。

 テレサ・テンは、台湾の軍の音楽隊に所属していた父親の友人にその才能を見いだされた。軍の慰問に連れていかれるようになり、初ステージは小学校2年生だった。14歳で歌手デビューし、一家を支えながら国民的人気歌手になる。その後中華圏の香港、マレーシア、シンガポールでもレコードをリリースし、アジアのトップスターになった。

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