ギターの流しとして、流れ着いた地方都市で町の人々を泣かせる悪党たちを倒し、思いを寄せてくるヒロインを振り切って一人旅立っていく主人公、滝伸次。馬に乗り、拳銃を撃ち、ダイスやカードさばきもあざやかで、おまけに歌までうまい。小林旭主演の映画「渡り鳥」シリーズである。西部劇ばりのストーリーとヒーロー像から〝無国籍映画〟などと揶揄されたが、旭のカラッとしたさわやかな持ち味と、ダイナミックなアクション、スタイリッシュでシャープな身のこなし、スマートなカッコよさで、1959年公開の映画『ギターを持った渡り鳥』は、拍手喝采で観客から迎え入れられた。
ペギー葉山のヒット曲をモチーフにした小林旭の主演映画『南国土佐を後にして』が大ヒットしたことにより『南国土佐を~』をベースに進化形として作られた映画で、小林旭は一躍ドル箱スターとなり、「渡り鳥」シリーズとして全9作が製作された。西部劇のガンマンばりの拳銃さばきで地方都市にのさばる悪玉をやっつけ、可憐なヒロインを助け、別の町へと去っていくという毎回お決まりの勧善懲悪のストーリーだが、函館、佐渡、磐梯、雲仙などの地方都市の旅情も手伝って、旭は今までの日本映画にないヒーロー像を誕生させたのだ。ヒロインは8作まで、浅丘ルリ子が務め、名コンビが誕生した。そして、主人公と敵対しながらも、どこか友情にも似た感情で通じ合う殺し屋ジョーを演じた宍戸錠のユーモアたっぷりの芝居も、映画のいいスパイスになっていた。
主題歌「ギターを持った渡り鳥」は、哀愁を帯びたカントリー調のメロディと旭のハイトーンボイスが見事に相俟って、馬に乗り、あるときは船に乗り去っていく旭を、潤んだ瞳で見送るルリ子が映し出されるラストシーンを大いに盛り上げてくれ、僕の中では日本映画史に刻まれる名ラストシーンとなっている。ある意味、究極のラブシーンのような気すらしている。まだ小学校にあがる前だったが、この1作で、僕はルリ子と旭のファンになった。石原裕次郎も好きだったが、幼い僕にとっては日活と言えば裕ちゃんよりアキラだったのだ。両親に連れられて行った映画館の想い出と共に、あのメロディが流れると、懐かしさというより、切ないような泣きたくなるような感情が今でもわきあがってくる。
小林旭が歌手として日本コロムビアからレコードデビューしたのは58年の映画主題歌「女を忘れろ」だった。当時の歌謡界は、フランク永井や石原裕次郎などの低音ブームだったが、旭の天を突き抜けるような高音には驚かされつつも聴く者を魅了した。当時の日本映画では、文芸作品と言われるジャンルを別にすれば、必ずと言っていいほど主題歌があって、旭も『銀座旋風児』シリーズをはじめ、ほとんどの主演作品で主題歌を歌っている。劇中でも歌うシーンが多く、その声質から「ソーラン節」や「ダンチョネ節」「ズンドコ節」「デカンショ」といった民謡や俗謡も数多く披露している。タイトルには必ず「アキラの~」とつけられていた。