23.05.10 update

【わが昭和歌謡はドーナツ盤】55年超えるラジオ深夜番組[オールナイトニッポン]のスタートアップをリードした「帰って来たヨッパライ」

 1967年10月深夜、そろそろ瞼が重くなってくる時間だのに、眠ってはいられない。大学受験の予習がまだ終わっていないからではない。じっとラジオに耳を傾けているのは軽快なサンバのリズムで始まる『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)のテーマ曲が流れるのを、まんじりともせず待っているのだ。午前1時ちょうど、ハール・アルパートのトランペットが聴こえてきた! ~パパパッ!パッパラパパッパー!~ もう参考書やアンチョコ、ノートはそっちのけでラジオに集中する。パーソナリティはDJ(ディスクジョッキー)の草分け・糸居五郎、斉藤安弘、今仁哲夫、高崎一郎、亀渕昭信らが確か曜日ごとにリスナーに語りかけてくれる。それぞれ個性的で名調子、様々な街の話題から分かりやすい洋楽解説とともに、ビートルズが流れサイモン&ガーファンクル、ボブ・ディランだって聴かせてくれる。歌謡曲からポップス&フォークに好みが傾いていた受験生には深夜放送は格好のメディアだったのである。

 2023年の今日までつづいている『オールナイトニッポン』の沿革はさておき、放送開始から間もなくオンエアされたのが「帰って来たヨッパライ」(1967年12月25日リリース、東芝音楽工業)だった。当時、どんな経緯があったのか知る由もないが、草創期の『オールナイトニッポン』でしか聴けない楽曲だった。

「お前聴いた? 帰って来たヨッパライ」。朝、顔を合わせる同級生との挨拶代わり。前夜(日付は今日)の『オールナイトニッポン』でザ・フォーク・クルセイダーズの「帰って来たヨッパライ」を聞き逃してしまうと、同級生の会話に入れなくなるような、仲間外れになるような気がした。ニッポン放送の深夜番組しか聴くことができなかっただけに、ラジオにしがみついたのだった。「寝てねーよぉー」と眠い目をこする通学風景があった。

 早回しのマンドリンように聴こえる奇妙な前奏から、くぐもった震える声も早回しで歌い出す、オラは~~~、オラは(酔っ払って運転して交通事故で)死んじまった、と東北訛りで白状する。オラの声はまるで〝チコちゃん〟のようなボイスチェンジの早回しで、何度も死んじまっただぁと叫び、泣きべそのように繰り返すばかり。やがてオラは長い雲の階段を登って、天国へ辿り着いたが、そこは、綺麗な姐ちゃんもいるし酒はうまいし、ついつい浮かれてしまう。そうこうしていると怖い神様がゆったりとした関西弁で、怒鳴りつけるのだ。天国ちゅうところはそんな甘いもんやおまへん、と。ところがオラは怒鳴られたのもすっかり忘れて酒浸りがつづき、さすがに堪忍袋の緒が切れた神様はオラを天国から追い出してしまう。この世の叫びとは思えないギャーという不気味な声とともに天国から落下するオラ。我に返ると畑のど真ん中で生き返っていた、という顛末。

1 2

映画は死なず

新着記事

  • 2024.05.20
    やっぱり懐かしい!映画『男はつらいよ』の世界にひた...

    京成電車下町さんぽ<2>

  • 2024.05.17
    町田市立国際版画美術館「幻想のフラヌール―版画家た...

    応募〆切:6月10日(月)

  • 2024.05.14
    阿木燿子作詞、宇崎竜童作曲の名曲を得て、自身初とな...

    ミュージシャンという肩書が似合うようになった

  • 2024.05.14
    全米の映画賞を席巻した話題作『ホールドオーバーズ ...

    応募〆切:6月5日(水)

  • 2024.05.14
    『あぶない刑事』の舘ひろし&柴田恭兵、70歳超コン...

    5月24日(金)公開

  • 2024.05.10
    背中トントン懐かしい ─萩原 朔美   

    第14回 キジュからの現場報告

  • 2024.05.10
    練馬区立美術館「三島喜美代─未来への記憶」展 観賞...

    応募〆切:5月31日(金)

  • 2024.05.10
    <特集>帰ってきた日本文化の粋 ─ 今、時代劇が熱...

    文=米谷紳之介

  • 2024.05.09
    吉田修一原作×大森立嗣監督が『湖の女たち』で再びタ...

    5月17日(金)全国公開

  • 2024.05.09
    東宝映画『ゴジラ』のヒロインに抜擢され、その後俳優...

    東宝から俳優座へ。

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

information »

ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベントを開催!

イベント ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベ...

4月10日(水)~5月27日(日)

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!