野口五郎の31枚目のシングルとしてリリースされた「女になって出直せよ」は、作詞・阿久悠、作曲・筒美京平、編曲・船山基紀が手がけた楽曲で、ラリー・カールトン、デヴィッド・サンボーン、トム・スコットらとの共演によりロサンゼルスで録音されている。欧米の音楽の影響を受けた洋楽志向の都会的な洗練された日本のポピュラー音楽として、海外を中心に見直されているいわゆるシティ・ポップの1曲であり、とにかくカッコいい! Original Loveの田島貴男が、NHKBSプレミアムの「the Covers」で披露していたが、アイドル野口五郎がこんな曲を歌っていたのかと、改めて曲の魅力を再認識した。
2021年には、岩崎宏美と初のデュエット曲「好きだなんて言えなかった」をシングルリリースし、22年にはジョイントライブツアーも開催している。7月12日の日本テレビ系「news every.」では、〝アイドルからミュージシャンへ〟と題して野口五郎の特集が組まれていた。そこでは、バンドのメンバーたちが、ほんとうに楽器のことを知り尽くしている、と野口を評していた。パソコンで、配信用の音楽を自ら編集もするという。現在も世代を超えた多くのファンたちがコンサートに足を運ぶ様子が紹介されていた。そして、盟友だった西城秀樹亡き後、西城秀樹の魅力と歌を次世代に語り継ぎ、歌い継いでいる姿に、同じ時代を生き抜いてきた戦士のような固い絆で結ばれた仲だったのだ、と胸が熱くなる。
また、同じく22年に、ミュージシャンとしての野口をリスペクトしている桑田佳祐の誘いを受け、同学年の佐野元春、世良公則、Charと共に「時代遅れのRock’n Roll Band」のレコーディングに参加し、配信・ストリーミングで発売された。そして5人で、昨年の紅白歌合戦の特別枠で出場し披露した。野口五郎は、アイドル以前にスーパー・ギタリストだった。
「青いリンゴ」「めぐり逢う青春」「オレンジの雨」「君が美しすぎて」「甘い生活」「針葉樹」「風の駅」「グッド・ラック」「真夏の夜の夢」「女になって出直せよ」「コーラス・ライン」「19:00の街」などなど、さまざまな野口五郎の曲に接してきたが、「私鉄沿線」は、テレビの歌謡番組や、レコード大賞をはじめとする、いわゆる〝賞レース〟番組を、娯楽として楽しめていた〝昭和調〟のノスタルジーにひたらせてくれる1曲であり、郷ひろみや西城秀樹の持ち歌には決してなりえない、というところで、野口五郎ムードを感じさせてくれる曲として僕の心をくすぐったようである。
文=渋村 徹 イラスト:山﨑杉夫