シリーズ わが昭和歌謡はドーナツ盤
毎年この時期に気になるのは、中島みゆきの「夜会」である。コンサートでも、演劇でも、ミュージカルでもない「夜会」は、1989年に始まり、中島による原作、脚本、作曲、演出、主演で年々評判になっていった。チケットはなかなか入手困難で、また取れなかったと残念な思いになるのだが、今年は12月8日から『中島みゆき 劇場版 夜会の軌跡 1989~2002』がロードショーされることを知った。これは逃してはならないと、上映の始まった映画館に出かけたのである。
音響がよいと評判の有楽町の映画館では、「二隻の舟」から、「ふたりは」「キツネ狩りの歌~わかれうた~ひとり上手」と続き、「まつりばやし」「街路樹」「氷脈」「記憶」と冬のイメージで終わった。全19曲、なかには初めて聴く曲もあったが、19曲ともかなり凝った衣装と演出がされていて、エンターテイナー・中島みゆきの独創性に驚かされる連続だった。「わかれうた」では、和服姿で道に倒れ、髪をふり乱しながら情念たっぷりに歌い上げていたが、あまりの熱演に笑いを誘った。「夜会」は彼女のライフワークとされ、通算20回も公演をしているが、本来のシンガーソングライターとしても600を優に超える楽曲がある。
今も歌い継がれる名曲「時代」(75)をはじめ、「NHKのプロジェクトX~挑戦者たち」の主題歌「地上の星/ヘッドライト・テールライト」やNHK連続テレビ小説「マッサン」の主題歌の「麦の唄」など、スケールの大きな曲も多いが、当初は〝失恋ソングの中島みゆき〟のイメージが強かった。自身の「アザミ嬢のララバイ」「わかれうた」「悪女」、研ナオコに提供した「LA-LA-LA」「あばよ」のヒット曲など、フラれて傷ついた女心を歌った曲が浮かんでくる。
そんな中島が1970年代、トップアイドルだった桜田淳子に提供したのが1977年11月5日リリースの「しあわせ芝居」だ。中島みゆきは、25歳、歌う桜田淳子は19歳である。男性の本心に気付いてしまった女性の辛い心情を、19歳の桜田はよく表現したと改めて思う。筆者にとってこの歌が心に響いてきたのは、ずっと後のことである。