24.03.21 update

六角精児の弾き語りで蘇った、昭和ポップス界のレジェンド、ムッシュかまやつの「どうにかなるさ」

 本曲の生みの親、かまやつひろし/ムッシュかまやつ(本名、釜萢 弘)の存在は、われわれ団塊世代の一世代前のミュージシャンと言っては失礼か。それだけに戦後の輸入洋楽、ポピュラー、ポップス、ジャズ、カントリー&ウエスタン等々を日本の音楽文化に植え付け、後に続いたミュージシャンたちの兄貴分として、数々の業績を残してくれた貢献度は文化勲章モノだと思っている。昭和14年(1939)生まれ、父親は戦後の日本にジャズを普及させたジャズ・ミュージシャンの日系アメリカ人ティーブ・釜萢、という辺りまでは知っていたが、かまやつが「ザ・スパイダース」のメンバーとして脚光を浴びるようになってからその存在を知ることになった。ザ・スパイダースは田邊昭知が1961年頃に結成したが、まず田邊と意気投合したかまやつ自身がメンバーの発掘に東奔西走したという。グループ名の名付け親は、父親のティーブ釜萢で、「蜘蛛の巣の様に世界を席巻する」という想いを込め命名したという。結成以後は数年の雌伏期間もあったが、GS(グループサウンズ)ブームの先駆けとして牽引するようになったのは、1964年頃に7人の布陣となった以降だろうと記憶している。田邊昭知(リーダー、ドラムス)、加藤充(ベース)、かまやつひろし(ギター、ボーカル)、大野克夫(オルガン、スチール・ギター)、井上孝之(ギター、ボーカル)、堺正章(ボーカル、タンバリン、フルート)、井上順(ボーカル、タンバリン、パーカッション)。

 折から、「ザ・ビートルズ」旋風が世界に巻き起こっていたことから、ザ・スパイダースの真っ赤なミリタリー風のコスチュームも向こうを張っていたのだろう。1965年かまやつによる作詞・作曲「フリフリ」はクラウンレコードからシングル・デビュー、初めて耳にした当時は〝フリフリ〟が何だか分からなかったが、この楽曲がグループの勢いに火をつけた。その後、1966年2月「ノー・ノー・ボーイ」(作詞:田邊昭知、作曲:かまやつひろし)、9月「夕陽が泣いている」(作詞作曲:浜口庫之助)、12月「なんとなくなんとなく」(作詞作曲:かまやつひろし)、1967年7月「風が泣いている」(作詞作曲:浜口庫之助)、1968年「あの時君は若かった」(作詞:菅原芙美恵、作曲:かまやつひろし)とヒット曲がつづいた。堺、井上のメーンヴォーカルの歌唱はわれわれの心に響いたが、ザ・スパイダースとしての全盛期は5年にも満たなかった間のヒット曲ではある。ザ・タイガース、ザ・テンプターズ、ザ・カーナビーツ、ザ・ジャガーズなど10代後半から20代前半の若手グループが次々と台頭してきたことで、新たなGSブームが巻き起こり、ザ・スパイダース、ブルーコメッツといった、当時としては年齢層の高いグループが徐々に窮地に立たされていく流れだった。堺正章や井上順はそれぞれ活動しはじめ、かまやつも1970年4月、解散半年前に「どうにかなるさ」をリリースしている。もともとはザ・タイガースの岸部修三・岸部シロー兄弟のユニット「サリー&シロー」の1970年2月発表のアルバムへの提供曲だったというが、どうにかなるさの心境は、グループ退団後を思っての発露だったとは、うがち過ぎだろうか。それよりも、まだザ・スパイダース在籍中のかまやつのソロシングル盤が発売されたことに驚いた記憶がある。ザ・スパイダースのボーカルは堺&井上と決め込んでいたのだ。やはり1970年9月の解散以後、かまやつはフォークシンガーの吉田拓郎とコラボした「シンシア」を歌い、同じ吉田による作詞作曲の「我が良き友よ」をリリースしたのが1975年2月。吉田拓郎が自分ではリリースせず、「ムッシュにプレゼントしたい」と提供した楽曲が、オリコンの週間第1位を獲得する大ヒットとなり、かまやつの代表作になっている。

 かまやつひろしは、もともと母親の妹でジャズシンガーの浅田陽子は叔母にあたり、その夫の森山久はジャズ・トランペッター。その娘の従妹にはフォーク歌手の森山良子、良子の娘で元・歌手の森山奈歩は従姪、シンガーソングライターの森山直太朗は従甥。音楽ファミリーに生まれたかまやつひろしは、子どもの頃から輸入盤レコードを聴きながら育った。青山学院の中学、高校の時からカントリー&ウエスタンをモノにしていたという。日系アメリカ人の父の元での恵まれた音楽環境は、自由で磊落で大らかさを育み、周囲には彼を慕う仲間たちが多く集まった(六本木野獣会)。そのほとんどが年下の若者たちだったはずで、兄貴分的なかまやつがリーダー的存在だったにちがいない。学園紛争がいよいよ激しくなっている時代に、六本木「キャンティ」というイタリアン食堂を根城に富裕な良家の子女たちが夜な夜な集まり歌い文化を語り、人生を語っていた。「キャンティ文化サロン」と言ってもいい趣の根城こそ、かまやつひろしの音楽界にとどまらない広範囲のアーティストとの交流を生み、様々な楽曲を提供することになっていったのだろう。(その業績をここですべて紹介するにはあまりにも紙数が足りない。いずれ本誌で「特集:ムッシュかまやつ」をお届けできる日が来るだろう。)2017年3月1日、享年78。

文=村澤次郎 イラスト=山﨑杉夫

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