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令和の今もコーラスで親しまれるH2Oが昭和58年リリースした「想い出がいっぱい」を作詞したのは、山口百恵、中森明菜、郷ひろみ等にも楽曲提供した、阿木燿子だった

 阿木燿子の代表曲には夫の宇崎竜童の作曲で、山口百恵の「横須賀ストーリー」「イミテーション・ゴールド」「プレイバックPart2」「絶体絶命」「美・サイレント」「さよならの向こう側」などで山口百恵の全盛期から引退までを支えただけでなく、郷ひろみの「お化けのロック」「ハリウッド・スキャンダル」「How many いい顔」、キャンディーズの「微笑がえし」、南こうせつの「夢一夜」、研ナオコ「愚図」、内藤やすこ「想い出ぼろぼろ」等など書き出したらきりがない。ジュディ・オングの「魅せられて」では第21回日本レコード大賞、中森明菜の「DESIRE─情熱」では作曲・鈴木キサブローとのコンビで、第28回日本レコード大賞に輝いている。ある時は失恋の痛手を負う女性や一途に恋する繊細な女性の曲のイメージが強いが、可憐な彼女を見守る優しい男性の目線で表現した曲はあまりなかったような気がする。

 まさに昭和歌謡史に燦然と輝く作詞家の一人であるが、面白いのが作詞家になろうと思っていたわけではないことだ。作詞家としてのスタートは、75年「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」で29歳の時だった。大学時代、軽音楽部で知り合い、毎日プロポーズされていた宇崎と結婚したが、当初は苦労した時期もあったようだ。宇崎がダウン・タウン・ブギウギ・バンドでデビューし、アルバムの曲が足りないから何か書いてくれと頼まれて作詞した曲が、作詞家としてのデビュー曲になった。アルバムのタイトルは、『続 脱・どん底』。「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」は「カッコマン・ブギ」のB面としてシングルカットされたが、あれよ、あれよという間に大ヒット。阿木を見初めた宇崎に目の狂いはなかった。

 さらに阿木は映画・テレビで女優としても活躍し『四季・奈津子』(80)では、報知映画賞最優秀助演女優賞を受賞し、『家族ゲーム』(83)では松田優作の恋人役も演じれば、小説、エッセイも執筆するマルチな才能を遺憾なく発揮している。

 話を戻そう。

 「想い出がいっぱい」の大ヒットは喜ばしいことであったけれども、シンガーソングライターとしてのスタイルを貫きたいH2Oにとって、それが裏目に出てしまった。作曲の鈴木キサブローからデモテープが送られ、そこに阿木の歌詞が届いた。メンバーの赤塩は、その爽やかな歌詞にイメージが一気にわいてきて〝これがプロか〟と自信喪失してしまったとある雑誌のインタビューで語っている。さらに青春の爽やかソングを歌うグループというイメージも重くのしかかって来たようだ。85年解散。その後、赤塩はもともと得意だった英語を生かしアメリカ留学、帰国後は中村雅俊や稲垣潤一らに楽曲提供、アミューズで新人の歌唱指導、大学で英語講師もすれば、ラジオで往年の洋楽のヒット曲や名曲の秘話や解説をするコーナーにも出演している。中沢はソロアーティストとしてライブ活動をメインに、スタジオミュージシャンとして光GENJIのレコーディングなどに参加、熊本に移住し音楽活動を続けているようだ。

 二人は、筆者の生まれた地域と近い、長野県上田市の出身だった。1999年に上田市から市制80周年のイメージソングを作って欲しいとの依頼があり、再結成して「ここにおいでよ」を歌ったという。しかし解散してから二人の活動はほとんどないようだ。

 二人が「ザ・ベストテン」で歌っていた頃、サビの歌詞にどっぷり浸っていたが、同郷だったとは今まで気がつかなかった。H2Oが上京した当時、東京までの新幹線は開通していなかった。特急あさま号で上野から上田までは約3時間かかった。ボックス席の車両で、碓氷峠の急勾配を越えるため、横川駅で一時停車させ後押しの機関車を連結する。その時、〝釜めし屋〟がくるのだ。乗客はこぞってそれを求める。きっとH2Oの二人も峠の釜めしを求めたことだろう。歌とは別のところでとても親しみを覚えたのである。

 プロとしては約5年間の活動だったが、歌い継がれている名曲を残した二人に拍手を送りたい。

文=黒澤百々子 イラスト=山﨑杉夫

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