お出かけと外食

関東大震災後に普及した小市民の楽しみ

昭和の風景 昭和の町 2009年11月25日号より


映画にお芝居にお買い物といったお出かけ。デパートの大食堂やレストラン、パーラーでのお食事。女性たちや、子供たちもこの習慣が普及していったのは昭和を迎えてからのことであった。このうれしい習慣は長いこと昭和の楽しい行事として存在した。磯野カツオくんも、ワカメちゃんも、ちびまる子ちゃんも、みんな、お出かけと外食に胸躍らせた。そのデパートの食堂が様変わりを見せ、消え去ろうとしている。だから今、私たちは古い映画の中にあの幸せな思い出のシーンを訪ねるのだ。


文=川本三郎


奥さん孝行の
夫婦でのお出かけ

 

 昭和三十年(1955)に作られた東宝映画、丸山誠治監督の『男ありて』はプロ野球の監督とその家族を描いたホームドラマの秀作だが、このなかに監督の志村喬が、珍しく奥さんの夏川静江を誘って銀座に出る場面がある。夫婦のお出かけである。夫のほうからいえば奥さん孝行。

 奥さんの希望だろう、まず日比谷の宝塚劇場で宝塚の舞台を見て、そのあと、お好み焼屋に入り、夫婦差し向かいで食事をする。

 現在では夫婦のお出かけはもう普通のことだが、昭和三十年代にはまだ珍しい。だから夫のほうは少し照れ臭い。それでも奥さんが「わたしもいただこうかしら」とビールを飲んで「ああ、おいしい」というと思わず笑みがこぼれる。

2010年11月25日 Vol.2より

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