生きることの尊さ、命の大切さを主人公・鉄郎少年に託す
鉄郎は、母の面差しを強く意識しながら、メーテルと銀河へと渡る「999号」で長い旅に出立する。
銀河鉄道の停車駅での停車時間は、駅ごとに異なる。999号が停車する星の自転の速度により、日昇から日没までが10時間であったり30時間であったりする。
停車駅で降りると、鉄郎はしょっちゅうトラブルに巻き込まれ、出発時刻に遅れて星に取り残されそうになる。なによりも大切な「無期限パス」をなくしたり、奪われそうになったりする。男気をふるって勇ましくあろうとするあまり、たびたび窮地に陥る鉄郎を、メーテルは一身にかけて見守りつづける。
少年画報社文庫版『銀河鉄道999』第1巻の終わりに、松本零士は綴っている。
〈僕は残された時間――人間の〝限りある命〟の尊さを描こうと思いました。人間の生命の何とはかなく短いことか――〉
同時に、残る時間が限られているからこそ、人は努力をするはずであると、星野鉄郎を通して描かんとしたとつづけている。
不老不死の無限の生命を得たとして、その先に何があるのか。『銀河鉄道999』で描いた〈機械化人間〉の行き着くところは何なのか、と自問自答するように投げかけながら、〈努力しない者に報いはあり得ません〉とも断じている。
星野鉄郎は、松本零士の出世作となった『男おいどん』の主人公・大山昇太をどことなく思い起こさせ、ひいては作者自身の青少年期を想像させる。

『男おいどん』は、4畳半下宿に住む極貧の大山昇太を主人公とし、彼を取り巻く人々の生活を描いた。インキンタムシに苦しめられ、押し入れのパンツにキノコを自生させるなど自身の情けない体験をもとに描かれた漫画だったが、多くの読者の共鳴を呼び少年誌では初めての大ヒットとなった。
精緻な「銀河鉄道999号」の描写は、松本零士のいう〈何よりも好きなメカニズム〉として結実し、『宇宙戦艦ヤマト』や『宇宙海賊キャプテンハーロック』のそれへと発展してゆく。

『宇宙戦艦ヤマト』は秋田書店「冒険王」で1974年11月号から75年4月号に連載された。西暦2199年の壊滅状態に陥った地球を、正義感が強く熱血漢の古代進や紅一点の森雪らが救う。キャラクターの魅力に加え、激しい戦いを繰り広げるメカニックもファンを魅了した。『宇宙海賊キャプテンハーロック』は、海賊戦艦アルカディア号の船長ハーロックと、レーダーを担当する有紀蛍、搭乗員の台羽正らが、地球侵略を企てる異星人マーゾンとの戦いを描いた。TVアニメ化され、日本だけでなくフランスでも人気となった。








