◇モンゴル出身横綱に感謝
横綱として45回優勝しましたが、白鵬の荒っぽい相撲が目立つようになったと批判する人が多くいました。大横綱であればこそより謙虚に抑えて欲しいと願っていましたが、彼の学習意欲の深さ、高さは今でも高く評価しています。横綱になって14年半、白鵬の引退について、新聞のコメントに私は、「ありがとうございました」と結びました。野球賭博問題、八百長騒動、東日本大震災などに対し、常に先頭に立って横綱としてリーダーシップを発揮し、相撲界を引っぱってきたことは間違いありません。
令和3年11月場所では、照ノ富士が全勝優勝しました。彼は大怪我や糖尿病で、序二段まで落ちました。私も十両に落ちた時は、もう引退した方がいいのでは思ったこともありました。しかし今は脱帽しかありません、よくぞ耐えて頑張った、と思います。優勝インタビューもニコリともせず、「辞めるまで真っ正直に受け止め、相撲を磨いていく」と言っています。どん底から這い上がった横綱照ノ富士の精神状態のすばらしさ、人間的な成長は特出していると感じます。(令和3年11月場所翌日談)
◇ ◇ ◇
名勝負、名場面はもとより、時代を彩り支えた力士たちの人間像が次々に浮かびます。69年現場に携わった私にとって、これほどまでに相撲に魅せられるのは、そこに人生があるからです。土俵に人生が凝縮されているからです。勝負の奥にある人間を見ることを自分に課してきました。これからも花道を引き揚げるまでの両者の一挙一動を見逃したくありません。
令和4年大相撲3月場所、ひとり横綱・照ノ富士は新大関・御嶽海をどう迎えるのか、間もなく始まります。(完)
すぎやま くにひろ 昭和5年、福岡県生まれ。昭和28年3月早稲田大学第一文学部を卒業し、NHKに入局。大学在学中には「早稲田大学アナウンス研究会」を創設した。名古屋、福岡、大阪、東京各放送局に勤務。入局以来大相撲、野球、オリンピックなど各スポーツ放送の実況アナウンサーとして活躍。大相撲は入局から一貫して担当した。昭和62年10月18日定年。NHK専門委員、BS放送にも携わる。現在、東京相撲記者クラブ会友、日本福祉大学生涯学習センター名誉センター長、同大学客員教授として週2回名古屋で講義を持つ。著書に『土俵一途に 心に残る名力士たち』(中日新聞社)、『土俵の真実』小林照幸氏と共著(文藝春秋)、『土俵の鬼 三代』、『兄弟横綱 若貴の心・技・体』(講談社)他。