「昭和歌謡アルバム」第一弾のラストを飾るのは、あべ静江。東海学園女子短期大学在学中に東海ラジオの人気DJとなったあべ静江が、キャニオン・レコードから歌手としてデビューしたのは昭和48年のこと。キャニオン・レコードは、ニッポン放送系列のレコード会社で、あべと同時期には中条きよし、その後は、研ナオコ、田原俊彦、堀ちえみ、チェッカーズ、岡田有希子らが、同レコード会社からヒット曲をリリースしている。あべ静江のデビュー曲「コーヒーショップで」は、オリコンチャートのベスト10内にランキングされ、自身にとっても最大のヒット曲となった。昭和48年の日本レコード大賞でも浅田美代子、アグネスチャン、安西マリア、桜田淳子らと共に新人賞にノミネートされている。その年に話題をさらったアイドル歌手が並ぶ中、あべ静江は大人のお姉さん的な雰囲気を醸し出していた。最優秀新人賞は「わたしの青い鳥」の桜田淳子だった。ちなみに大賞は「夜空」の五木ひろしで、大衆賞には麻丘めぐみの「わたしの彼は左きき」、沢田研二の「危険なふたり」などが選出された。天地真理の「若葉のささやき」で、竜崎孝路が作曲賞を受賞している。
「コーヒーショップで」もいいが、個人的にあべ静江のこの1曲を選ぶとしたら、やはり「みずいろの手紙」だ。この曲はセリフで始まるが、「そして、いまでも愛していると言ってくださいますか」というフレーズの間(ま)の取り方、そして最後の「か」がいい。遠慮がちだが、ちょっと甘えた感じもあって、爽やかなお色気とでも言うのだろうか、とてもチャーミングだった。そして、声が伸びきった高音が美しかった。リリースされた翌年にNHK紅白歌合戦に初出場を果たす。3曲目の「突然の愛」も、ヒットした。デビューからの3作すべては、作詞・阿久悠、作曲・三木たかしのコンビが手がけている。
若手アイドルの全盛にあって、あべ静江の上品で清楚で、育ちの良さそうな佇まいは貴重だった。当然のことながら、テレビドラマや映画界が放っておくはずもなく、女優としても引く手あまたの人気者となった。その中で、山田太一の脚本による、深夜ラジオのディスクジョッキーの世界を取り上げた昭和49年放送のドラマ「真夜中のあいさつ」では、女優としてのデビュー作品ながら、多くのドラマ関係者を納得させるに十分な魅力を放っていた。同年スタートした、小津安二郎作品集をベースにフジテレビ開局15周年記念として連続ドラマ化した「春ひらく」でも、ベテランから若手の人気俳優が勢ぞろいする中、あべ静江も松坂慶子や、当時人気だった仁科明子(現・仁科亜希子)と共にキャスティングされている。
現在も現役の歌手として、全国各地での歌謡ショーに出演しており、司会者としてもベテランらしい達者ぶりをみせている。今、聴きたい1曲となれば、やはり「みずいろの手紙」である。
レコードジャケット同様、プロマイドも昭和の文化だろう。プロマイドに写る歌手たちの若々しい笑顔から、その時代が鮮やかによみがえってくる。今回ご紹介した5人の歌手たちの写真に、自身のあの日あの時を重ね合わせるとき、懐かしい想い出のアルバムのページが開く。マルベル堂には天地真理51版、安達明80版、久保浩147版、美樹克彦188版、あべ静江22版のプロマイドが所蔵されている。
さて、次回はいずれの歌手に登場してもらうか、楽しく悩んでいるところだが、第二弾にも、昭和の歌番組を彩ったすばらしい5人の歌手たちが登場する。公開は4月28日の予定。