さて、第2ステージのラストを飾るのは、〝昭和の歌姫〟の一人としてはばかることなく紹介できる藤圭子。若い世代にとっては宇多田ヒカルの母として知られているかもしれないが、昭和世代にとっては、藤圭子の娘が宇多田ヒカルなのである。昭和44年、18歳でRCAレコードから「新宿の女」でレコードデビューした藤圭子。ドスの効いたハスキーボイスでの凄みのある歌唱と、日本人形のような美貌とのギャップも魅力的で、その後、一世を風靡することになる。キャッチフレーズは〝演歌の星を背負った宿命の少女〟だった。昭和46年に放送されたテレビの人気アニメ「さすらいの太陽」のヒロインのモデルは藤圭子だった。
翌、昭和45年に発売した「女のブルース」は、オリコンシングルチャートで8週連続1位を獲得する大ヒットとなり、同年3月にリリースしたファーストアルバム『新宿の女/“演歌の星”藤圭子のすべて』は、オリコンチャート20週連続1位、7月発売のセカンドアルバム『女のブルース』は、17週連続1位を記録した。作家の五木寛之が「1970年のデビューアルバムを聴いたときの衝撃は忘れがたい。これは「演歌」でも、「艶歌」でもなく、まちがいなく「怨歌」だと感じた」と評したのは有名な話だ。藤圭子は、五木の原作をテレビドラマ化した昭和46年放送の「涙の河をふり返れ~艶歌より」に出演している。また、同じく五木原作の昭和56年のテレビドラマ「新・海峡物語」にも出演しているが、このドラマは、引退した藤圭似子のカムバックを素材にしている。昭和54年に一時期引退していたが、昭和56年には藤圭似子の名で復帰した。その後、藤圭子に芸名を戻している。2作共通の主人公で、〝演歌の竜〟と呼ばれるレコード・ディレクターを演じていたのは芦田伸介である。
そして昭和45年に創設された日本歌謡大賞の第1回大賞を受賞した。同年の日本レコード大賞ではザ・ドリフターズの「ドリフのズンドコ節」と共に、大衆賞を受賞している。ちなみにレコード大賞は、菅原洋一の「今日でお別れ」、最優秀新人賞は、にしきのあきら(現・錦野旦)の「もう恋なのか」だった。さらに、日本雑誌記者会・芸能記者クラブにより設立されたゴールデン・アロー賞では、演歌歌手として初の大賞に輝いた。昭和38年度第1回の大賞受賞者は江利チエミで、新人賞は舟木一夫だった。
同年にNHK紅白歌合戦に「圭子の夢は夜ひらく」で初登場し、通算5回出場している。その年の初出場組には、和田アキ子、ちあきなおみ、辺見マリ、ヒデとロザンナ、にしきのあきら、フォーリーブスらがいる。
70年安保の屈折した世代にも人気があった藤圭子。他の歌手のヒット曲も多くカバーしており、本家を凌駕する歌唱力と評判で、藤圭子の巧みな表現力での歌唱が、屈折した心にも響いたのであろう。どこか、ちあきなおみと似ている。さて、今聴きたい藤圭子の1曲として挙げるならば、4枚目のシングル「命預けます」だろうか。今でも、多くの歌手が藤圭子の歌をカバーしているが、この曲は藤圭子にしか歌えない、と個人的には感じている。
今回も5人の歌手たちのプロマイドを選びに、マルベル堂へと出かけたのだが、1枚だけ選ぶのは、酷な作業でもあり、その時代をよみがえらせる楽しい時間でもある。沖田浩之41版、城卓也59版、仲宗根美樹92版、松山恵子39版、藤圭子60版のプロマイドがマルベル堂には所蔵されている。
次回はいよいよ、最後の5名の登場となるが、候補者はまだ20名ほどいる。この特集では、昨今のテレビなどではなかなか紹介される機会が少ない、と個人的に感じている歌手ということを意識しながらセレクトしているので、読者の方々にとっては不満の残る人選かもしれない。ご容赦願いたい。第三弾の公開は5月30日の予定。