写真&文 上田尚也 (東京都稲城市)
おばあちゃんはなぜかわいいのだろうか。
顔の皺を崩して微笑む穏やかな表情は田舎の母と重ね合わせてしまい、余計に愛おしく感じてしまう。そんなおばあちゃんのたい焼きは素朴な味だ。
毎日小豆を煮て作るあんこは優しい甘さで、何個食べても飽きがこない。
皮も国産の小麦を使用している。60年前に始めたというお店の変わらぬ味だ。
きっとその頃のたい焼きを食べたことがある人にとっては、これだこれだこの味だと、懐かしい記憶が蘇ってくるに違いない。
おばあちゃんは来年で90になる。
昔はこの辺りは川魚の料亭やうなぎ屋が軒を連ね、芸者の三味線が聞こえていたと、お店を始めた当時のことを教えてくれた。
それももう、おばあちゃんの店だけになってしまったのか。
いつまでもお元気でいてほしいと、この先マンションかコンビニなんかにならないでほしいと、切に願いながら、消えてしまった三味線の音を想像しながら多摩川を歩いた。