new 21.09.28 update

克己の品性、草笛光子さん。 

文=萩原朔美

What a beautiful life 美しいとき 2010年6月1日号より

ゴージャス。草笛光子さんは、日本の女優でこの言葉が似合う数少ないお一人。
翻訳劇の舞台でも草笛さんのセリフは何の違和感もなく耳に飛び込んでくる。
さらに、草笛さんには、きっぱりとしたさわやかさがある。
好き・嫌い、自分の求めたいものが明瞭なのだ。
これは港町・横浜の出身だということと無関係ではないだろう。
そして、極めんとする女優の芝居を見せるとき、
その空間は、品性という草笛さんの芸の質で満たされるのである。

撮影=渞 忠之 
ヘア&メイク=尚司芳和〈HAIR DIMENSION〉(草笛光子) 

演技に対する真摯な熱情が
品性を生成し醸造する

「品行は直せても、品性は直せない」 草笛光子さんをイメージした時、すぐ浮かんでくるのがこの言葉だ。原節子のセリフである。タイトルは忘れてしまった。たしか小津安二郎監督の映画だったと思う。
 たしかに品行は隠せる。矯正は可能だ。しかし、品性は躾や学習などではどうにもならない。
 草笛光子さんが醸し出す雰囲気は、常に品性というドレスを纏っている。どんなによごれた役でも、どんなに下劣な振る舞いの役を演じていても、根底に深沈と流れている品性は揺るがない。そう思えるのだ。
 たぶん、演技に対する真摯な熱情が品性を生成し醸造しているからではないだろうか。そうとしか考えられない。
品性は、容姿や振る舞いや出自が生み出すものではない。そのことを草笛さんはみごとに証明しているのである。
 映画、テレビ、舞台。この中でひとつ選ぶとしたら、どれを選択しますか。私はがそんな質問をしたら、
「芝居ですね」
 瞬時に答えが投げ返された。逡巡のない明快さがあった。芝居は稽古が辛い。長く続く本番が辛い。だからこそ舞台の表現に賭けたい。克己は品性の芸名なのだ。
 昨年の舞台『グレイ・ガーデンズ』のパンフレットで草笛光子さんが書いている。
─── 役者はその人物になりきるために、どうしても、その役を自分の体にいったん通さなくてはいけない。自分の血となり肉となるまで稽古で噛み砕いていかねばならない。これがとても辛いんです。 ───
 自分とはまったく別の人間を自分のなかに取り込む作業。考えただけでも大変そうだ。自分にはない癖、感性、イントネーションなどを我が事にする。翻訳劇だと文化や習慣の違いが加わるから辛さは倍増するだろう。
─── 体でわかるまで繰り返し取り組むようにしています。やりなれないことを体に強いているので、お稽古はしんどいですけど……。でもこれは私が翻訳劇に挑む場合に、どうしても通らなくてはならない道なんです」
 

草笛光子 Mitsuko Kusabue

 大変さは、辛い稽古の後さらに倍増して役者を襲う。演劇は、一回性のやり直しのきかないライブパフォーマンスである。間違えはあり得ない。病気で休むことは許されない。そんな毎日は想像しただけでぞっとする。観客にこの大変さを理解して貰うには、結婚式の挨拶を思い浮かべてもらえば分かりやすい。わずか数分のセリフなのに本番は上がってしまって上手くいかない。その緊張が二時間三時間と続き、一週間、一か月と休みなく襲ってくる。私ならストレスでだらだらと呑んでしまうだろう。草笛さんは公演に入ると、早くベッドに入りアルコールは口にせず、体を保つため摂生に努めるのだそうだ。

1 2

こちらの記事もどうぞ
サントリー美術館様
森美術館

特集 special feature 

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン

「芸術座」という血統

「芸術座」という血統

名作『放浪記』の舞台から「シアタークリエ」へ

秋山庄太郎ポートレートの美学

秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

ウイスキーという郷愁

ウイスキーという郷愁

いつか「ダルマ」が飲める大人になってやる

昭和は遠くなりにけり

昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

Present

information

下北線路街にホテルが出現、「MUSTARD HOTEL SHIMOKITAZAWA」開業

下北線路街にホテルが出現、「MUSTARD HOTEL SHIMOKI...

下北沢に新しいホテルとエンタメカフェが誕生!

世界初!新型コロナ対策の寝具誕生

世界初!新型コロナ対策の寝具誕生

マニフレックスで安心の熟睡

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives

私にとっての箱根 archives

私にとっての箱根 archives

小田急沿線さんぽ archives

読者の声

コモレバクラブ

Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!