「遺品にしておくわ…」

文=上野千鶴子

 

女友だちとの遠慮 会釈ないやりとり

 

 おしゃれな女友だちが、周りに多い。 気の利いたものを身につけていると、 ただちに「それ、いいわね」と反応が来る。それに続けて「気に入ったわ、次はわたしにね」と来る。遠慮会釈なく「それ、しばらく着てていいわ」とのたまうお方もいる。ときどき「女遊び」と称して、お洋服の交換会やリサイクル市などをやっていたので、いずれ飽きたら放出してもらえるものと思っているらしい。

 美しいもの、きれいなもの、かわいいものが好きだ。それがキライな女はいないと思う。仕事が世の中の問題や矛盾を 暴き立てる社会学という性格のわるい専 門なので、なおさらなのかもしれない。 美しいもの、きれいなものを身につけるとき、女に生まれてよかった、と思う。 「だから、女は…」という手合いには、くやしかったらキミたちも身を飾ってみたまえ、と言いたい。人類が身を飾ってこなかった歴史はないのだから、女が男なみに身なりにかわまなくなるよりは、男が女なみに身なりに気をつけるようになるほうが、 ずっと文明的だし、そちらの可能性が高い。

「それ、いいわね。ちょうだい」 に、最近、新しい返し方を見つけ た。「いいわよ、遺品にしておくわね」 …だから、わたしが早く死ぬように祈ってね、と言いたいわけではない。
 

あの人へ、遺品は あの世からの手紙

 
 このところ知友が亡くなることが増えた。しばらく経ってから、ご遺族から「故人の遺品です」と送られてくることがあ る。時計や万年筆のような高価な品でなくても、故人が愛用していたこまごましたアクセサリーをセットにして送ってくださる方もある。傘やクッションを箱に詰めて送ってくださった方もあった。自分の趣味でなくても、大胆な猫柄のクッションや、あざやかなカラーの折りたた み傘などに、「そういえば、彼女、こうい うのが好きだったわねえ。それによく似 合ったわ」と故人を偲ぶ。そういう品のあれこれを身につけて外出すると、その 日一日、故人がわたしを守ってくれるような気がする。遺品は護符でもあるのだ。

 わたしは遺言状を書いて、遺言執行人も指名してある。遺品の整理はその方に任せてある。だが、いろいろある遺品を、 関係者のそれぞれに振り分けて送る作業はたいへんだろう。それに人の好き好きもある。そんなことなら、「あれが好き」と気に入ってくれた友人に、この品はAさんに、あの品はBさんに、とあらかじ めリストを作っておけばよい。その人の 好みやたたずまい、暮らしの流儀などを 考えながら選んだ品が、亡くなってからご本人のもとに届けば、きっと「あの世 からの手紙」だと感じてくれるだろう。 「あら、覚えててくれたのね」と。
 
  断捨離も整理もできないし、したくない。娘もいないのに、あまたの身の廻り品を残してあの世に旅立つ。たいしたものはないが、その全部をゴミにしたくはない。そのくらいの処理を友人に頼んでも、罰は当たるまい。
 
 さて、そろそろリストを作ろうかしら。

うえの ちづこ

社会学者。1948年富山県生まれ。京都大学大学院社 会学博士課程修了。1995年から2011年3月まで東京 大学大学院人文社会系研究教授。11年4月から認定 NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事 長。専門は女性学、ジェンダー研究。高齢者の介護問 題にも関わる。『近代家族の成立と終焉』(岩波書店)で 94年サントリー学芸賞、2011年度朝日賞受賞。『みんな「おひとりさま」』(青灯社)、『ニッポンが変わる、女が変 える』(中央公論新社)、『おひとりさまの老後』(文春文庫)、『おひとりさまの最期』(朝日新聞出版)、『ひとりの午後に』(NHK出版)他多数の著書がある。


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