23.10.25 update

最終回 おもしろきかな!わが映画人生



映画は死なず 実録的東映残俠伝

─五代目社長 多田憲之が見た東映半世紀─

文=多田 憲之(東映株式会社 代表取締役会長)

ただ のりゆき
1949年北海道生まれ。72年中央大学法学部卒業、同年4月東映株式会社入社、北海道支社に赴任。97年北海道支社長就任。28年間の北海道勤務を経て、2000年に岡田裕介氏に乞われて東京勤務、映画宣伝部長として着任。14年には5代目として代表取締役社長に就任し20年の退任と同時に取締役相談役就任。21年6月、現職の代表取締役会長就任。

企画協力&写真・画像提供:東映株式会社


 

 今まで自分の人生を振り返るなんてことは一切なかったが、今回の連載をきっかけに改めて私の映画人生、そして東映での仕事を振り返ってみて、面白い人生だった、いい人生だったなと思っている。映画とともに人生を過ごしてきて、すでに半世紀を超える。まさに〝光陰矢の如し〟の心境である。毎日毎日こなさなければならない、いろんな課題があって、一つの映画に当たった、当たらなかったと一喜一憂しつつ50年以上、こんな刺激的な人生を過ごせてこられて、ありがたいと思う。映画界に感謝である。いい人生を送りたいと思って入ったわけでもなく、好きな俳優に一度くらいは会ってみたいといった、ささやかなミーハー的な思いで入った映画界。東映に入社した結果、映画界での仕事を好きになったし、仕事が面白かった。ひと言で言えば、石原裕次郎ではないが、〝我が人生に悔いはなし〟といったところだろう。

 他の映画会社ではなく、東映だったからよかったと実感しているのは、変な表現だが、粗雑な会社風土、要するに、東映はなんでもやらせてくれた会社だったということだろう。入社以来28年を過ごしたのが北海道支社という小さなブランチであったことも大きい。小さなブランチだけに、入社したその日から戦力にならざるを得なかった。北海道支社という小さな枠の中で好きなことをやらせてくれた。これが本社勤務であれば東映グループ全体を束ねなければいけないわけだから、新入社員の22歳の若造の出番はなく、実際何もできなかっただろう。だから、仕事場として北海道を希望したというのは大正解だった、とつくづく実感している。
 今でも若い社員たちに、いろんなブランチに行って仕事をしなさい、と言っている。以前、九州支社に配属になった新入社員に、仕事はどうだと訊ねると、入社したばかりにもかかわらず、責任のある仕事をさせてもらっていると言う。そういうことである。若手社員たちはみんな優秀で頭もいい、だが、頭でっかちになってはならない。勉強と仕事とは違う。能書きばかり言っていても仕方がない。与えられた仕事に対して、どう向き合えるかということで、まずは、やってみることだ。誰しも、それぞれに、私ならこうできるといったものを持っているのだ。
 もちろん、どんなに優秀な人物だったとしても、映画が当たるとは限らない。映画そのものが良くなければ当たらない。また、どんないいシナリオであり、すばらしい俳優たちが集まったとしても、現場が一致団結できないときは、ぎくしゃくした関係でだめになるし、この映画を当てようという思いで現場が一つになれば、いい結果をもたらすことにもなる。そんなときに、「こうしてみよう」「こうすれば」といった知恵が出てくる。三代目社長の高岩淡は、「映画はパッションだ」と言っていた。すべての映画人の共通の思いは、映画をより多くの人に観てもらいたいということだ。それが結局数字につながっていくわけである。いい映画を作りたい、いい映画ができたら、みんなに観てもらいたいということである。

1 2 3 4

こちらの記事もどうぞ
映画は死なず

新着記事

  • 2024.05.02
    〝私をカンヌに連れてって〟くれたエドワード・ヤン監...

    文=河井真也

  • 2024.05.02
    人々はどうやって映画を愉しんできたのか、鎌倉市川喜...

    4月13日[土)~7月7日(日)

  • 2024.05.02
    山本リンダの「こまっちゃうナ」から「どうにもとまら...

    遠藤実のレコード会社を救ったヒット曲

  • 2024.05.01
    自分の街、がなくなった ─萩原 朔美   

    第13回 キジュからの現場報告

  • 2024.05.01
    日本人デザイナーのパイオニアとして世界で活躍した髙...

    7月6日(土)~9月16日(月・祝)

  • 2024.04.30
    泉屋博古館東京 企画展「歌と物語の絵 ─雅やかな...

    応募〆切:5月27日(月)

  • 2024.04.26
    92歳の現代美術作家・三島喜美代の東京での初の個展...

    5月19日(日)~7月7日(日)

  • 2024.04.26
    中村勘九郎、七之助を中心に若手歌舞伎俳優たちが新宿...

    5月3日(金・祝)~26日(日)

  • 2024.04.26
    銀幕の大女優・浅丘ルリ子の159本の出演作の中から...

    5月13日(月)、14日(火)

  • 2024.04.26
    「2030 SDGsカードゲーム」が教えた箱根湯本...

    津田かおり(ホテル仙景 若女将)

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

information »

new ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベントを開催!

イベント ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベ...

4月10日(水)~5月27日(日)

「箱根スイーツコレクション 2024」開催中 4月22日(月)まで キャンペーンも実施中

箱根 「箱根スイーツコレクション 2024」開...

Instagramをフォローして、素敵な賞品をゲットしよう

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!