先日、CS放送の日本映画専門チャンネルで1960年公開の映画『がめつい奴』を観た。この作品は59年10月から60年7月まで、芸術座で10か月の大ロングランを記録した菊田一夫原作の舞台の映画化で、舞台で主演し、芸術祭賞やテアトロン賞を受賞した三益愛子が映画でも主役の〝お鹿婆さん〟を演じた。テレビドラマ化もされるほどの当時の話題作で、映画版には森繁久彌、高島忠夫、森雅之、団令子、草笛光子、安西郷子らが出演していた。そして、お鹿婆さんに引き取られる戦災孤児ながら、たくましく、したたかに生きるテコ役で出演していたのが、舞台版でも同役で出演し、天才子役と謳われた中山千夏だった。その中山千夏の姿を見て思い出したのが、69年にリリースされ、ヒットした中山千夏が歌った「あなたの心に」だった。
僕らの年代で、中山千夏と言えば、64年から69年に放送されていたNHKの人形劇「ひょっこりひょうたん島」だ。64年当時、僕は小学4年生だった。井上ひさしらが原作を手がけたミュージカル・スタイルの人形劇で、個性豊かなキャラクターたちの声を担当したのも、個性豊かな面々だった。初代大統領となるドン・ガバチョは藤村有弘、子供たちの世話をするサンデー先生は楠トシエ、海賊トラヒゲは熊倉一雄、元ギャングのマシンガン・ダンディは、「おそ松くん」ではイヤミの声を担当した声優の小林恭治、人畜無害のライオンは滝口順平、そのほかにも、黒柳徹子、野沢那智、青島幸男、左とん平、北村和夫、三波伸介、愛川欽也らも出演していた。中山千夏が担当したのは、百科事典をすべて暗記している超天才少年の〝博士〟だった。中山千夏の名前はこの作品で知った。主題歌もヒットした。
中山千夏の出演ドラマで忘れられないのがもう一つある。70年から71年にかけて土曜日に放送されていた連続ドラマ「お荷物小荷物」だ。男尊女卑の男ばかりの7人家族(志村喬、林隆三ら)の運送店に、住み込みのお手伝いとして働くのが中山千夏。男たちを手玉にとり、次第に懐柔していく姿には、女性視聴者たちはカタルシスのようなものを感じていたのではないだろうか。シュールなブラック・ユーモアがちりばめられた佐々木守脚本の本作は、〝脱ドラマ〟〝脱ホームドラマ〟などとも呼ばれた、いわゆる異色のドラマだった。主演の中山千夏が、共演者やスタッフにマイクを向けインタビューする場面が組み込まれたりもしていた。
70年に公開された、虫プロダクションと日本ヘラルド映画の提携作品『クレオパトラ』も記憶に残る。手塚治虫が原案、構成、監督を手がけた大人向けの劇場用アニメで、エロチシズムを放つキャラクターも話題になった。中山千夏は主人公のクレオパトラの声を、シーザーの声はハナ肇が担当していた。音楽を手がけたのは冨田勲。映画、テレビのアニメ「じゃりン子チエ」の主人公チエ役の声を担当したことで、中山千夏の名を憶えている人も多いかもしれない。