それまで毎日同じ時間に酒を酌み交わすことが日課だった二人なのに、突然、一方的に「お前が嫌いになった」と絶交宣言されたら……。
物語の舞台は、1923年のアイルランドの西海岸沖に浮かぶイニシェリン島。激しい内戦に揺れる本土とは対照的に、平和が保たれた静かな島である。主人公のパードリック(コリン・ファレル)と20歳近く上のコルム(ブレンダン・グリーソン)の間に起こる謎めいた仲違いは、小さい島の住民たちに波紋を与え、混乱と狂気を巻き起こす。『スリー・ビルボード』で世界中を熱狂させた、マーティン・マクドナー監督の待望の最新作『イニシェリン島の精霊』が、1月27日(金)より公開される。
いつものように、パードリックがコルムをパブに誘うと、突然絶交宣言をされる。パードリックは、困惑し何度も理由を質す。「お前のつまらない話に時間を取られたくない」と、フィドル弾きを生業とするコルムは、残された人生を有意義なものにするため、作曲に没頭したいというのだ。だからパードリックとつき合うことは無駄だと。
とてもショックを受けたパードリックは、妹や隣人、さらには神父の力を借りてコルムとの友情を取り戻そうとするが、コルムは一向に態度を変えない。さらに「創作の時間を邪魔すらなら、自分の指を切り落とす」とパードリックに迫る。島の全員が顔見知りだという住民にたちまち噂が広がり、あちこちに不穏な空気が漂う。エスカレートしていく二人の男の諍いは、最後にどんな結末を迎えるのか。不気味な「イニシェリン島にふたつの死が訪れる」という予言も出てくる。予測不能な結末に魅了されていく。
アラン諸島のイニュシュモアに主人公の家を建設し、撮影は行われた。島を囲む冷たい海の色彩や、1920年代のパブの店内など、大自然とその時代の背景が、マクドナー監督によって美しい映像に収められているが、晴れ間のないどんよりとした風景は登場人物たちの心情とオーバーラップする。
それにしても、終始なぜコルムはバードリックと絶交しなければならなかったのだろうかという疑問が残る。この物語がアイルランドで内戦が勃発している1923年だということに関係するのではないだろうか。アイルランド内戦の悲劇は想像でしかないが、二人や、島の住民に与えた影響は計り知れないものがあるのだろう。もし、アイルランド内戦がなったら、二人はそのまま親友でいられたのかもしれないと思うと、現在のロシアによるウクライナ侵攻の悲劇を思わずにはいられない。
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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