文=大森寿美男 (脚本家)
2012年7月1日号 PERSON IN STYLE《美しいとき》より
背筋が伸びた凛とした和服姿に艶やかな声。
スクリーンデビュー直後からテレビにも数多く登場してきた藤村志保さんの演じる女性像には、どこか覚悟をした女性という、揺らぎのない強さがうかがえる。
それは、持久力というより、瞬発力の人と言えるかもしれない。
脚本家・大森寿美男さんは、藤村さんに魅せられた一人。
大森さんの脚本三作品を通して、「女優・藤村志保」の本質が語られる。
藤村志保さんには、これまで脚本を書いたドラマ(全てN H K )に三度出ていただきました。そのそれぞれで時間を共に過ごせたことは、本当に幸運だったと思っています。そのドラマにとって、どれほどかけがえのない存在であったか、その思いに、言葉ではとても追いつけそうにありませんが、ざっと書きます。
その出会いは、『長良川巡礼』という単発ドラマでした。藤村さんの役は、記憶を失いかけながらこの世を去る老女で、その妻が残した謎めいた手紙を発見した夫が、手紙の真相を探る旅に出るという話でした。つまり藤村さんは、混沌とする意識の中で登場し、あっけなく冒頭に消えてしまうのに、圧倒的な存在感を残さなければならないという役でした。さぞ演じ難かったろうと思いますが、藤村さんはその作品に、すっぴんで身も心も投げ出すようにして、見事に印象深く演じてくださいました。作者の想像を遥かに超えるリアルな老女がそこに存在していました。